持ち出しで介護をする場合には「情報の事前共有」が大切
それよりも難易度が高く、ある種の“ずる賢さ”が求められるのは、「介護で負担したぶん、多く相続する」ための備えだ。吉澤氏が続ける。
「親の預金・年金が少なく、持ち出しで介護をする場合には、記録に加えて『情報の事前共有』が大切です。毎月の持ち出し額を他の相続人との間で共有し、状況を理解してもらっておく。そうすることで、同居人が立て替えたぶんが相続財産から控除される、つまり同居して負担した子がそのぶん、多く相続できるようになるのです。
これは相続発生時に事後的に伝えても負担したことを信じてもらえないリスクがあるので、事前に相手方の理解を得ておくことが必須だと思います」
同居して介護する子は、自分や自らの妻の介護負担について、他の兄弟姉妹に対してどうやって伝えておくかが肝になる。相続関係の著作が多い税理士法人レディングの木下勇人税理士も同意見だ。
「息子やその配偶者が、親の介護を続けながら一緒に生活していれば、親以外の家族の日用品などを一緒に購入してしまうこともあるでしょう。それを他の相続人から咎められないためには、事前に他の相続人と『親を施設に入れた場合の施設代の相場観』を共有しておくことです。
自分や自分の配偶者が介護に時間や労力をかけたぶん、施設に入れるよりも大きくコストが削れているとわかれば、『ある程度は親の預金から使ってもいい』という了解を取れるかもしれません。相手との関係性次第ですが、何か基準を出して説明することで、自分の家族内での立場が有利になりやすいでしょう」
たとえ家族が相手でも、自らの立場が悪くならないように先回りして備えておくことが重要になる。
※週刊ポスト2024年2月9・16日号