『源氏物語』の作者・紫式部の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』。現在、物語は吉高由里子演じる主人公のまひろ(のちの紫式部)と柄本佑演じる藤原道長が徐々に関係を深める一方、宮中では花山天皇を取り巻く貴族たちの勢力争いが佳境を迎えつつある。大河が描く平安時代の宮中における政治的な駆け引きついて、歴史作家の島崎晋氏は「日本史の根幹にかかわること」と指摘する。どういうことか。島崎氏が解説する。(以下、ドラマの内容を含みます)
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数字はともかく、今年のNHK大河ドラマ『光る君へ』の評判はそんなには悪くない。
第6回「二人の才女」(2月11日放送)では、藤原道隆(井浦新)が花山天皇(本郷奏多)の側近グループに対抗するため、若い貴族たちを招いて漢詩の会を催す場面が出てきた(紫式部と清少納言の初めての出会いということにもしていた)。
その前週、第5回「告白」(2月4日放送)では、花山天皇が強行しようとする荘園整理令に対し、右大臣の藤原兼家(段田安則)と左大臣の源雅信(益岡徹)、関白の藤原頼忠(橋爪淳)が怒りと危機感を共有する場面が出てきた。「標的はわれら」と言うくらいだから、3人が3人とも大きな不利益を被ると受け取れるが、いったい視聴者の何割くらいが不利益の具体的な中身を理解できただろうか。
荘園とは公領(国有地)に対する言葉で、貴族や寺社、地方豪族などの私有地を指す。日本では645年に起きた蘇我氏打倒の乙巳の変を境に天皇を頂点とする中央集権体制の構築が進められ、672年に壬申の乱が起きて以降、それがさらに加速した。
壬申の乱で勝利を収めた天武天皇は律(刑法)と令(行政法)による体制づくりを急ぐとともに、地方の国府に都から官僚を送り込み、公地公民の周知に努めた。すべての土地、すべての民は国家に属するという中国伝来の考え方である。