「所有権は子、居住権は母」を可能にする配偶者居住権
相続人の間で利害が対立する事態に備えて、それぞれの立場で“武器”となる権利についても知っておく必要がある。
たとえば、2020年4月に新設された配偶者居住権。山本氏が解説する。
「夫婦の片方が亡くなり、被相続人の所有する家に残された配偶者が住んでいた場合、一定の条件が揃えば賃料を払わずに住み続けられる権利です。活用される機会が多いわけではないのですが、親子で遺産をめぐって揉めたケースのために新設された制度です」
想定されるのは、父の死後に母子間での遺産分割協議がうまくまとまらなかったケースなどだ。子供が自分の権利ばかり主張すると、「子供の相続分を捻出するために、母が暮らす自宅を売却しなくてはならない」「母が自宅を相続する代わりに、預貯金はすべて子が相続し、母が生活に窮する」といった事態になる。
「そうした状況を回避できるように配偶者居住権が新設され、『(自宅の)所有権は子、居住権は母』といった遺産分割が可能になりました。この権利を使うことで、配偶者は預貯金など自宅以外の遺産をより多く取得できます。ただ、あくまでトラブルが起きた時のための仕組みで、使い勝手はよくない。亡くなるまで居住権は消滅しないので、配偶者が認知症で施設に入ったりしても、自宅の売却は難しくなります。使わずに済ませられるなら、それに越したことはありません」(山本氏)