本来、遺言書は相続トラブルを防ぐ役割を果たすものだ。親が法的に有効な遺言書で相続についての意思を示していれば、基本的にその内容が尊重される。子供たちの仲が悪くても、遺言書に“強制力”があるため、揉める余地がなくなるわけだ。
ただし、「全財産を長男に」といった極端な内容だと、親の認知症が疑われるケース以外でも、揉めごとにつながる。相続人に認められた“最低限の権利”を侵害する遺言書になっているからだ。相続・贈与に詳しい税理士の山本宏氏はこう言う。
「法定相続人(被相続人の兄弟姉妹を除く)には、『遺留分』という最低限保証される遺産取得分があります。相続人が子の場合は法定相続分の半分が遺留分。遺言書をもとに取得できる財産が遺留分を下回る場合、その人は遺留分侵害額請求を起こせます」
遺留分を前提とした遺言書にする
掲載した表の通り、何人きょうだいかで遺留分の割合は変わってくる。
遺留分をめぐってきょうだいが争う事態を防ぐには、親が遺言書をまとめる段階で遺留分を前提とした内容にしておくことが重要だ。子供の立場では、相続に関する家族会議が開かれた際などに、親に遺留分の存在を説明できるとよいだろう。山本氏が続ける。
「親が専門家の助言を受けるかたちに持っていければ、遺留分を侵害しない遺言書をまとめることは難しくありません。長男に自宅不動産など多くを相続させる遺言書にした場合も、長男を受取人にした生命保険で次男の遺留分を手当てするといったやり方があります」
「遺留分」は基本的に必ず認められる権利であるために揉めごとになるが、反対に認められるのが難しいがゆえにトラブルになるのが「寄与分」だ。
「寄与分とは、亡くなった人の財産の維持・増加に特別貢献した人が、他の相続人より多く相続できる制度です。親の家業を無給で手伝うとか、献身的な介護を続けたなど“特別の寄与”のあった相続人に認められるものですが、実際に寄与分を得るには高いハードルがあります」(山本氏)