しかし、昨年1月の外務・防衛担当閣僚による「日米安全保障協議委員会(2プラス2)」は、中国の軍備増強に対抗するため、日米両国が連携して南西諸島の防衛を強化する方針を表明。米海兵隊は11月、沖縄のキャンプ・ハンセンに駐留する第12海兵連隊のグアム移転を見直し、離島を拠点にする即応部隊「海兵沿岸連隊(MLR)」に改編した。同連隊は海兵隊の新たな運用構想の中核を担う即応部隊で、敵のミサイル射程圏内を移動しながら偵察や攻撃を行なうという。
つまり、沖縄の軍事的重要性はいっそう高まっているわけで、となると米軍は辺野古の代替施設が完成するまで12年以上も待つという悠長なことを言っていられなくなるかもしれない。
したがって、もし私が玉城知事だったら、辺野古移設反対を声高に叫ぶのではなく、アメリカ政府と交渉する手段を模索するだろう。
具体的には、普天間飛行場の機能を広大な嘉手納飛行場の中に移すとか、防衛省が種子島西方12kmの馬毛島に建設している航空自衛隊の訓練基地を共同利用するといった代替案を提示する。もともとアメリカは、広くて運用しやすい代替地があればいいわけで、普天間飛行場にも辺野古という場所にも強くこだわっていないと思うからだ。
そして、そうした提案にアメリカが同意したら、辺野古はモルディブスタイルの水上コテージを連ねた高級リゾートに転換する。そのほうが沖縄県にとって、基地移設よりはるかに大きな経済効果があるはずだ。
いずれにしても、まずは日本政府が国民に対して、沖縄返還時の佐藤首相とニクソン大統領の密約のために未だに沖縄ではアメリカによる軍事的な占領状態が続いているということをきちんと説明し、謝罪しなければならない。それを半世紀も隠蔽してきたから、沖縄で米軍基地を巡る数々の問題が起き、沖縄県民の対立が続いてきたのである。
もちろん民政だけでも返してもらったことはよかったが、軍政も含めて返してもらったと国民に勘違いさせた佐藤首相の欺瞞を白日の下にさらすことで、普天間飛行場の辺野古移設をはじめとする沖縄の米軍基地問題は、ようやく解決の糸口が見えてくると思うのだ。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2024~2025』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2024年3月29日号