若い頃に勉強ができなかった、無理矢理やらされる勉強はつまらなかった──そんな後悔を心の片隅に持ち続けていた人が、中高年になり、時間や経済的な余裕ができたタイミングで、“学び直し”をするケースが増えているという。実際に学び直しをした秋吉久美子(69)に話を聞いた。
母の死が学び直しを考えるきっかけに
秋吉が学び直しを考えたのは、2006年、自身が52才のとき。
「この年に母を看取ったのですが、そのときしみじみと、“私は母にとって誇れる娘ではなかったな”と──高校は進学校でしたが、3年生の夏休みに映画のオーディションを受けて合格し、映画に出演していたので、大学受験に失敗。
母はあふれんばかりの愛情を注いでくれる忍耐強い人でしたが、私にはもっと学んでほしかったんじゃないかと感じられることがあったんです。母自身は11人きょうだいで、高等教育を望んでも無理な家庭環境でした。だからこそ私に期待していたようなんです。
それなのに高校を卒業してすぐ、私は女優になって、しかも“シラケ女優”だなんて評判で……。母が亡くなったときに、そういった母の思いを改めて思い出し、勉強するなら“いましかない”と思ったんです」(秋吉・以下同)
ちょうどこのとき、知人から公共組織のマネジメントを担う専門人材の輩出を目的にした学問“公共経営”という学科について聞いた。秋吉がかねて興味のあった、哲学や文化人類学、世界・国・個人についてのすべてがここで学べると知ったばかりだった。さまざまな偶然が重なり、まさに学び直しのタイミングだと思ったのだという。
「女優という仕事は“情感”が大切。一方で勉強には“理性”が必要。これらは相反するものです。演技に理性が働くのはどうなんだろう? ただでさえ若い頃は“理屈っぽい”と言われて叩かれていたので、この上、学問をすることで何が起こるのだろうという危惧もありました。でも自分の内面を豊かにし、女優であることだけにこだわらず、より深く社会を理解し、社会活動に参加したいという思いが強くなりました。
50代に入ったからこそ、そう思えるようになったのかもしれません」