バウアーにとってDeNAは最高の「キープ君」
当のバウアーはメジャー最低年俸(約1億円)でもいいからメジャー契約を勝ち取りたいと考えています。そして、DeNAからの単年10億円相当というオファーを持ちながら、断らず、DeNA球団とファンに期待を持たせ続ける。DeNAとの関係性については、前出の通り「連絡を取っている」とのことなので、最高の「キープ君」ということになります。
それでいて、メジャーから距離的に近いメキシコのリーグで時間を引き延ばし、メジャーからナイスなオファーがあったら遠い日本にいるよりもすぐに動ける場所を選ぶ。実に賢い交渉術ではありませんか! しかも、メキシカンリーグの契約は途中で解除してもよいので、「やっぱ今期のメジャー復帰は無理だな」と判断したら、DeNAに合流することも可能でしょう。
こうした巧みな交渉術を日本の皆さんもバウアーから学んでもいいと思います。自分自身の価値をよくわかったうえで、最高の結果(メジャーとの契約獲得)を目指すべくそこに近い場所で待機をする。そして、いざという時のために自分を求めている存在(DeNA)をキープしておく老獪さ。
これは「バウアー流処世術」ともいえるもので、ビジネスパーソンの皆さんも実践していいと思います。まぁ、一定の実力がないとできない話ではありますが、バウアーのように【1】本命【2】キープ君【3】本命に近い存在、の3つを常に持っておくことが自分自身の市場価値を高めるためには必要なものだと思います。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など多数。最新刊は『日本をダサくした「空気」』(徳間書店)。