かつて転職するには「35歳限界説」があり、それよりも年上だと、より条件の良い転職先はそう簡単には見つからないとされてきた。しかし現在は、50代でもより良い条件の転職先や新しい仕事を見つける人もいる。そうした人たちは、どのように転職を成功させてきたのか。52歳の時に一部上場企業に転職した56歳男性・A氏の実例をもとに、50代の転職を成功させるために必要なものはなにか、ネットニュース編集者・中川淳一郎氏が考察する。
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A氏が過去に様々な仕事をしていたことは知っていました。元々芸術系の大学を卒業後、広告会社でCMを作ったりしているうちに、20代後半で仲間とともに小さな事務所を立ち上げます。その会社からA氏は独立し、自分の会社を作りますが、こちらは長続きせず、すぐ畳むことになります。
しかし、そんなA氏に思わぬ声がかかります。30代後半までに様々な有力者や大金持ちと一緒に仕事をしていたのですが、そのうちの一人である中堅企業社長が「人手が足りない!」となり、「私のお付きのスタッフになり、世界中の出張についてきてほしい」と言われるようになりました。
その会社は着実に成長をし、A氏も50代になり、「もうここでの役割を終えたかな」と思ったところで、かつての仲間・B氏から声がかかります。驚いたことに、B氏は某一部上場企業のNo.3に昇り詰めていました。B氏は自分にとって企画系の仕事を一緒にやりやすい人材として、A氏に白羽の矢を立てたのです。
「これまでより良い条件は出すよ」というのは当然の話です。そして、同じ時期に「A氏が今、労働市場で宙に浮いているらしい」ということを聞きつけた他の2社の知り合いや元仲間からもオファーが届きます。結局その中で一番条件が良く、かつ仕事もしやすそうな現在の会社を選びました。
「通常の転職活動ルートでは難しい」
50代で引く手あまただったAさんに、「50代が転職を成功させる秘訣を教えてください」と聞いたら、「単純なことだよ」と前置きをしたうえで、こう語りました。
「正直、オレぐらいの年齢になると、『知り合いのツテ』しかあり得ない。それがあるかないか次第でしょ。若い頃、色々やってきたけど、多くの人とは長きにわたって付き合いが続いている。長い付き合いの人が出世したり、新しい事業を立ち上げたりした時は、一緒に仕事をやりやすい人間を周囲に置いておきたいものなんだよ。
オレのキャリアを考えると、転職エージェンシーに登録しても、正直、何が得意なのかがよく理解されないと思う。これまでもずっと知り合いから転職のオファーをもらってきたけど、『オレのトリセツ』が分かっている人しか、オレを雇えないんだよね。もちろん、その人はオレが役に立つと思って声をかけてきているんだけど」