医療現場はブラック職場──医師や看護師の長時間労働の実態が報じられる一方、慢性的な「医師不足」に悩む地域は少なくない。しかし、今後数年のうちに、医師の数に対して「患者不足」が加速する可能性が高いという。なぜ「医師不足」から「医師余り」へと転じるのか? その問題の本質にあるのは「医師の偏在」だという。人口減少時代の社会経済問題に詳しい作家・ジャーナリストの河合雅司氏による最新レポートをお届けする。【前後編の後編。前編から読む】
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医師の地域偏在の解消にはアプローチを変えることだ。それには要因を解き明かすところから始める必要がある。
民間中心の日本の医療機関には市場原理が働く。必要な顧客数を獲得できなければ多くの業種の企業や店舗が成り立たなくなるが、民間病院や診療所も例外ではない。帝国データバンクによれば、2023年の医療機関(病院・診療所・歯科医院)の倒産は41件で、2年連続で40件超となった。このうち病院が3件、診療所が23件だ。
医療機関の倒産理由としては、高齢医師のリタイアに伴い事業継続を断念する事案が増えていることがあるが、近年は経営不振で負債を抱えて倒産するケースも目立っている。今後は法的整理を伴う倒産が増えると見られている。経営不振に陥る理由は1つではないが、最も深刻なのが地域人口の激減による「患者不足」だ。
すでに「患者不足」の予兆は人口減少が早く進む県において表れ始めている。一般的に高齢になるほど病気になりやすくなるが、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、65歳以上人口が2020年より少なくなる県は2025年時点では高知など8府県だ。2050年には26道府県に拡大し、秋田県は22.2%減となる。