社会全体としての「最低ライン」をどこに引くか
国土交通省は2050年までに現在人が住んでいる地域の2割が無居住化する可能性があると推計している。無居住化しないまでも激減するエリアは少なくない。
こうした状況下において、課題となるのは医療だけではない。ユニバーサルサービスを求められる事業者も膨大な費用を要することとなる。すべての地域で事業を継続することは困難になっていく。不便さや生活費の負担増を嫌って流出する人が増えれば、ますます医師の偏在は拡大する。
医師を公務員化してまで地域偏在を解消したとしても、生活に必須のその他の各種サービスが届きづらくなれば、結局は暮らし続けられなくなるということである。それより、過疎エリアに住む人々に移住を促し、地域ごとに人口集約を図るほうが合理的だ。
人口減少社会で問われているのは、どこまで医療を含む公的なサービスを提供すればよいかという線引きである。そろそろ社会全体としての「最低ライン」を決めるときだ。
今後の医療政策は厚労行政の枠内で専門家だけで検討するのではなく、「新たな社会の在り方」という視点をもって捉える必要がある。
(了。前編から読む)
【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。主な著書に、ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)のほか、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)などがある。