コロナ禍の行動制限の中で「塾だけは開いていた」
コロナ禍で中学受験をさせる家庭が増えたのは、表向きには「私立中はオンライン授業の対応など『非常時に手厚い』と保護者が評価しているから」と説明され、私もそういった文言を何度か書いた。確かにそれも要因の一部だが、実際にはもっと違う大きな理由がある。コロナ禍で「学童機能」も持つ塾へのニーズが高まったのだ。
コロナ禍の行動制限の時に、学校のプールも児童館も閉鎖され、子どもが行く場所がなくなった。リモートワークが増える中で、夏休みに子どもが家にいたら仕事の妨げになる。気温35度を超える猛暑の中で、公園に行って遊べともいえない。
「そんな中で塾だけは開いていたんです。そこに通わせたくなる保護者はいて当然です」(大手塾社員)
塾ならば、プロの管理下に子どもを預けることができるから安心できる。しかもプロの講師が授業をし、勉強をさせてくれるのだ。
大手塾があるイベントで「今は生徒の家庭の7割が共働き」と発言していた。一つには経済力があるのは共働き家庭ということもあるが、共働き家庭ほど「子どもを預ける先」を求めるからだろう。それがコロナ禍ではより切実な問題となり、塾に通わせる保護者が増えたのだ。
これは塾側も分かっていることで、「塾の校舎内で学習を完結させること」「保護者が負担に感じるようなことは取りのぞく」を意識している。そのため、最近では保護者が「塾弁」を用意せずに済むように、デリバリーでのお弁当や軽食が頼める塾もあるという。中にはマクドナルドなどの子どもが好きなファーストフードのデリバリーを利用できる塾もあると聞く。
そういった事情で、共働き家庭が増えたことで「学童機能」を持つ塾へのニーズが高まり、それがそのまま中学受験ブームの追い風になっていると考えられるわけだ。
とはいえ、中学受験は子どもを塾に入れて終わりではない。次回以降の記事では、“学童代わり”に息子を塾に入れた共働き家庭が、中学受験の“重課金”の沼にハマっていった具体的な事例を紹介していこう。
【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『中学受験ナビ』(マイナビ)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)で連載をし、『週刊東洋経済』『週刊ダイヤモンド』で記事を書いている。