首都圏・関西圏の中学受験の大手塾であるSAPIX。特に難関校を狙う層に大きな支持を集めている。一方で、SAPIXの独自の授業スタイルには、家庭によって向き不向きもあるようだ。著書『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)が話題のノンフィクションライター・杉浦由美子氏がレポートする「SAPIXで苦戦する親たち」の第1回。【全4回】
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「どうしてSAPIX生の母親たちはあんなに苦戦するのか」
中学受験を取材していて、ずっと疑問なのはこれである。取材を始める前の私ですら、周囲のSAPIX生の母親たちの愚痴を聞いており、「そんなに親が苦労するのか。大変だ」と情報を持っていた。
SAPIXのメソッドは、家庭での学習が中心なので、親の負担が大きいということはよく知られているし、説明会でもそれをちゃんと話すようだ。ある受験生の母親はいう。
「SAPIXの説明会で『うちを辞めるのはお子さんがついていけないからではなく、親御さんがそうなってしまうんですよ』と聞いて、入塾を諦めました。校舎長も信頼できる方で通わせたかったんですけどね」
「SAPIXは親の負担が大きい」。それは周知されているはずなのに、「どうして共働きで夫婦ともに忙しい家庭が子どもをSAPIXに入塾させるケースがあるのか」に、その母親は不思議がっていた。
「中学受験をさせるのはお洒落だから。塾はSAPIXじゃないとステイタス感が出ないわ」というチャラい考えのママたち(実在するのだ)ならば、判断力がないのも分かるのだが、知力が高く、情報収集能力もある母親たちがなぜ自分たちのライフスタイルと合わない塾に子どもを入れ、結局、後悔することになってしまうのか。
今回は、中高一貫校の教諭で担任も持っているA子さんの例を紹介しよう。大学時代に家庭教師として中学受験生の指導し、中学受験の内実を把握している。そんな彼女は2022年にSAPIXに娘を入塾させたものの、2024年2月に他の大手塾に転塾させることになった。
理由は「親の負担が大きすぎてついていけなかったから」である。中高一貫校の教諭はハードワーカーだ。それなのになぜSAPIXを選んでしまったのか。
「調べた結果、やっぱり、難関校に入れたいならSAPIXなんです」
さて、それはなぜなのだろうか。まず、中学受験をすることにしたきっかけから聞いていこう。