「家庭教師を雇っているけれど月に18万円払っているって」
「18万円?うちの家賃と同じじゃない? 週に何回なの?」
「さあ、それは知らないけれど。どちらにせよ、うちは家庭教師は無理そうだ」
夫が部屋を見渡した。A子さんもつられてそうする。ソファに子どもが脱ぎっぱなしにしたボトムスが置かれ、その上に夫が読みっぱなしにしている日経新聞がある。
ローテーブルの上には塾のテキストと鉛筆が散らかり、その横に使用済みのマスクが置かれる。大きさからして夫のものだろう。
片付けができない夫、出張が多い妻、散らかし屋の子ども。家庭教師を招き入れるために掃除をする労力を考えると、急に疲労感に襲われた。出張から帰った足で個別指導塾の無料面談に行って、心も体もストレスフルなのだ。
夫は価格表をじっと見て、それからこう告げた。
「試しに入れてみたらどうだ? 3ヶ月ぐらい通って成績が上がらないようなら止めてもいいし」
夫の意外な意見にA子さんは困惑し、「もう少し考えさせて」と答えたのであった。
今回は、目黒区在住のA子さんが子どもを高級個別指導塾にアクセスしていく過程に言及した。
次回記事では、「ペアローンはデメリットが多いからマンションを買わなかった」という慎重な性格のA子さんが、なぜ個別指導塾に重課金をしていったのかについて紹介したい。
【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『中学受験ナビ』(マイナビ)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)で連載をし、『週刊東洋経済』『週刊ダイヤモンド』で記事を書いている。