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【キャズムに陥るEV販売】悲観論が出回るなか、トヨタ・日産など日本の自動車メーカーが巨額のEV投資に踏み切る背景

関係者を驚かせた日産とホンダの提携(2024年3月15日、左から日産自動車の内田誠社長、ホンダの三部敏宏社長/時事通信フォト)

関係者を驚かせた日産とホンダの提携(2024年3月15日、左から日産自動車の内田誠社長、ホンダの三部敏宏社長/時事通信フォト)

後退感が出た今こそ追いつくチャンス

 EVが伸び悩む一方で、米国などでは日本勢が得意とするハイブリッド車が伸びている。このため、「EVの時代はもう来ない」といった悲観論も出回り始めた。

 こうした見方に追い討ちをかけるのが、米国政府がEVの「普及見通しシナリオ」を軌道修正したことにある。

 米環境保護局は3月20日、2032年時点での乗用車の新車販売に占めるEV比率の見通しが最大で67%としていたのを、56%にまで下方修正した。EV比率が下がる分は、プラグインハイブリッド車(PHV)とハイブリッド車(HEV)が増える見通しだ。後退感が出た今こそ追いつくチャンスとみた日本勢は、巨額のEV投資に踏み切り、アクセルを踏み始めた。

 トヨタは4月、米インディアナ工場に14億ドル(約2184億円)を投資し、SUVタイプの新型EVの生産を開始すると発表した。昨年は米ケンタッキー工場でも米国初となるEVの現地生産を始める計画を発表しており、2拠点目となる。

 完成車だけでなく、米国のEV向け電池生産にも2兆円規模で投資しており本気度が窺い知れる。

 ホンダも4月25日、カナダに150億カナダドル(約1兆7100億円)投資し、EVや電池の新工場を建設すると発表。2028年から稼働させる。

 米GMや米フォードはEVへの投資戦略を大きく見直している。両社はテスラやBYDに追随すべくEVへの投資を加速させたが、後退局面では尻すぼみになった。“後出しじゃんけん”で負けた構図に近い。自動車産業でトップランナーの地位を維持するため、日本勢は同じ轍を踏むわけにはいかない。

 ただ、現代は変化の形が読めない「非連続の変化」の時代だ。企業が生き残るためには、計画を立てることに時間をかけすぎず、実行しながら軌道修正していくしかない。実行なくして変化には対応できないということだ。

(了。前編から読む

【プロフィール】
井上久男(いのうえ・ひさお)/1964年生まれ。ジャーナリスト。大手電機メーカー勤務を経て、朝日新聞社に入社。経済部記者として自動車や電機産業を担当。2004年に独立、フリージャーナリストに。主な著書に『日産VS.ゴーン支配と暗闘の20年』などがある。

※週刊ポスト2024年5月17・24日号

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