質問が出なかったので説明する機会はなかった
〈2019年6月、月刊誌『文藝春秋』(7月号)に、ゴーン被告の共犯として逮捕された元代表取締役グレッグ・ケリー被告の記事「西川に日産社長の資格はない」が掲載された。それが対立構図を際立たせた側面もあった〉
その記事が出たのは、逮捕から半年経った株主総会の直前で、西川の報酬(SAR=株価連動型の役員報酬)に不正があったと書いてあった。あたかも私が不正を働いたかのような記述は身に覚えがなく、実に驚きました。
すぐに外部弁護士に頼んで調査してもらったところ、私を含む複数の役員報酬に社内ルールの違反が判明しました。違反は他ならぬケリーらによって行なわれたもので、私も他の役員も一切関与していないと、同年9月に公表した社内調査で明確になっています。
私は彼を法務と人事の専門家として信頼し、SARの権利行使を任せていました。いま思えば、彼を信頼したことが間違っていたのです。
記事が出た直後の2019年6月の株主総会で事実を説明するつもりでしたが、その時点では私以外の役員の調べが済んでいなかったため、積極的な説明は調査結果を待つことにしました。結果的に質問が出なかったので説明する機会はなかった。
ところが、9月にその社内調査が公表される前に、「日産社長ら報酬不正疑い」と、不正があたかも私の作為であるかのように切り取られた新聞記事が掲載されました。さらに、社内調査の結果報告を正式に受け取る取締役会前日に「西川社長、退任の意向」などと報じられてしまいました。
私はもともと、ゴーン体制の膿を出したうえで、1年の任期を待たずに次世代の経営陣へバトンタッチをして退くつもりでした。しかし、内部情報のリークという形で情報が外部に漏れ、社内に動揺がひろがってしまい、退任を前倒しせざるをえなくなった。
6月の総会の時点で、私自身の調査は終わっているとだけでも説明しておけば、混乱は避けられたかもしれない。結果として、次期経営陣が正式に固まるまでに3か月の暫定期間が生じてしまい、社内に余計な不安を抱かせたことは大変申し訳ないと思っています。
(後編〈《巨大企業で何が起きていたのか》元日産社長・西川廣人氏が語った『ゴーン体制の功罪』〉につづく)
※週刊ポスト2024年5月31日号