巨人の坂本勇人(35)が「1億円申告漏れを指摘された」と報じられて話題となっている。5月16日発売の『週刊新潮』によれば、坂本は確定申告で銀座や六本木の高級クラブなどの飲食費を必要経費として計上した結果、年間約2000万円、5年で約1億円が過大な経費計上と税務署から指摘されたという。坂本は年俸6億円(推定)というスター選手だが、大金を手にするスポーツ選手の「税金」「経費」をめぐる線引きは複雑なようだ。
プロ野球関係者を顧客に持つ税理士はこう話す。
「プロ野球選手の場合も税金は大きく分けて所得税と住民税になり、高額所得者となると両方合わせて55%となる。クラブやキャバクラでの飲食費が必要経費かという議論は聞いたことがなく、たとえば年俸数億円の選手でもそこから引ける必要経費は専属トレーナーとの契約料や海外自主トレの費用などで数千万円程度のものです。高額年俸の選手は、半分は税金で持っていかれているのが実情です」
プロゴルファーは「副賞にも課税」「メーカーからのボーナスは法人へ」
プロ野球選手は個人事業主で、球団からの年俸は個人の収入にしかできないため、「節税の手段は限られる」(前出の税理士)のだという。
他のスポーツに目を向けると、個人事業主として活動するという点ではプロゴルファーも同じだという。あるプロゴルファーはこう言う。
「ツアーでの優勝賞金は個人の収入になります。その賞金額から、遠征の交通費や宿泊費、飲食費(1大会10万~30万円)、キャデイフィ(予選通過で賞金の1割が相場)、遠征に使う自動車の購入費などは経費として計上できる。
ツアープロになれば道具やボール、ウェアは契約で無償になるので経費とは無関係だが、遠征で着る服やクリーニング代も経費で落とせます。オフの自主トレ費用、スポーツジムの会費、大会以外のプレー費なども経費に認められるが、ゴルフ場の会員権は経費にできないといいます」
ゴルフのツアー大会の場合、優勝者は賞金とは別に大会スポンサーなどから「副賞」が用意されるが、これは所得として課税対象になるという。
「自動車やビール1年分をもらうと、現金に換算して収入とみなされ、税金がかかります。副賞の自動車を他人にあげるケースもあるが、その場合も税金は優勝したプロが支払うことになる。世界一周の旅などは、使えば課税の対象になるが、1年といった期間内に使わないと紙切れと同じになって税金はかからない。
法人を作っているプロは多く、メーカーの契約金や取材謝礼、講演会などの副収入は会社の収入にしていますね。配偶者や両親を社長にしていることが多い。優勝すると優勝賞金と同額の“ボーナス”をメーカーからもらえる契約もあるが、これは法人で受け取れる。法人では事務経費が計上できるし、人件費のために家族の名前がズラリと並ぶケースもある。ちなみにアマチュアの個人へのラウンドレッスンの謝礼(1組10万円程度)は、現金で受け取って“裏金”にしている人もいるのが実態でしょうね」(前出・プロゴルファー)
大相撲「力士の懸賞金」は天引き制
興行として広まった大相撲の場合、収入をめぐる不透明な部分がさらに多いようだ。ある若手親方はこう話す。
「本場所のチケットにしたって茶屋を通して販売される分は定価があってないようなものだし、横綱や大関をはじめとした人気力士のもとにはタニマチから現金で莫大な祝儀が集まる。“領収書不要のカネ”は少なくない世界です。
力士は“宵越しの銭は持たない”で、税金には無頓着。そこは相撲協会も気にしていて、関取は給料制にしているし、懸賞金も税金を差し引いたものが支払われるかたちにしている。タニマチからの祝儀はあるけど、それでも現役力士はサラリーマンみたいなものです」
それが引退後には大きく世界が変わってくるという。
「引退相撲は1億円が集まるような状況になり、入場料収入は税務署からもチェックが厳しいが、当然ながらそれとは別に多額の祝儀がある。親方と引退力士で5対5、4対6で分けるといったかたちが慣例。そうした収入が、親方として協会に残るための年寄名跡の取得費用になってくるわけです」(前出の若手親方)
年寄名跡をめぐる「3億円の申告漏れ」も
年寄株をめぐっては、1996年に初代若乃花と初代貴ノ花の兄弟間で「二子山」の名跡の譲渡にあたり、後援会からの贈与金3億円を所得として申告しなかったため、東京国税局から申告漏れを指摘されたことがあった。ベテラン記者が言う。
「初代貴ノ花の藤島部屋が経理的にしっかり記録を残していたので狙われたという説もありますが、この申告漏れ騒動で年寄名跡取得の相場が明らかになった。取得に3億円もかかるとなれば、現役時代にどんなに実績を残しても、有力タニマチがいない力士は協会には残れないということになる。
年寄名跡の高額な売買は2014年1月の相撲協会の公益財団法人化の際に問題視され、新法人の定款では売買の禁止と協会の一括管理が明記された。ただし、過去に高額な金銭で取得した親方への救済策として、名跡の後継者任命権(5年以内であれば後継者となる襲名者を推薦できる)に加え、後継者が前保有者に親方としてのありかたを学ぶ“指導料”を払うことも認めた。
指導料については年1回の報告義務が課せられ、相撲協会の危機管理委員会で内容の監査をすることになっているが、協会に金銭の受け渡しの強制的な調査権がないために実態が不透明なうえ、指導料の額も決まっていない。売買とどう違うのかの説明もなく、公益財団法人化前と実態は同じではないかとの指摘もある。二子山部屋の申告漏れ騒動を経て相撲界が変わったのかというと、疑問も残ります」
競技によって税金をめぐる事情は、大きく異なるようだ。