互いに屁理屈と思い合う場合、「バカの壁」は乗り越えられない
このやり取りから読み取れる問題点は、この若者が自身の言っていることを100%の正論だと思い込んでいることにあるでしょう。自分の主張が正しい、と思っている人間に対する正論をもっての返答は、アチラさんには「屁理屈」と捉えられる。そうして互いに「屁理屈」と感じてしまった場合、もはや「バカの壁」は乗り越えられなくなり、後は声の大きい者か第三者の評価からしか、やり取りは収束を迎えられない。
この動画に登場する社長役の男性は、「社員から人望が篤い人物」として登場しているように思います。会社の風土としても「飲み会は社員同士の円滑なコミュニケーションとして重要」と考えているのではないでしょうか。
そこにこの若者は真っ向から反対し、飲み会に参加しないと表明した挙句、「飲み会があることを自分だけが知らないのは問題だ」と権利を主張する(メールで告知があったのに、それを自分がスルーしたことを棚に上げて)。これはもはや「モンスターエンプロイー(モンスター従業員)」とも言えるもので、「権利の主張」を拡大解釈しており、「傷ついたと言えばなんでも主張できる」という昨今の風潮を表しているのではないでしょうか。
実際にこうした従業員に手を焼いている会社もあるかもしれません。能力が低く協調性のない社員というのはいるものです。こうした社員の言動があまりにも度が過ぎて、業務が円滑に遂行できなくなったと判断できる場合は、もう解雇に踏み切っていいと思います。労働基準局に訴えられるかもしれませんが、きちんと就業規則や労働協約の手続きを経ていれば、解雇が認められることでしょう。
よくパワハラ対策として、従業員が自身を守るために録音が奨励されていますが、何らかの話し合いがされる場合は会社側も録音をするべきだと思います。会社側とすれば、パワハラをしておらず、非がないことを証明する必要がある。
今回の「モンスター新人動画」の件は、デフォルメされていますが、もしもこれが実際のやり取りであったら、若者の言い分は無茶苦茶だと判断されるはず。正直、私の会社にこんな新人が入ってきたらすぐにクビにします。「あなたは我が社に貢献できないし、合わない。採用のミスだった。次の就職先を見つけるまでの2ヶ月分の給料は出すので、どうか退職してください。そして金輪際我々とかかわらないでください」と言うでしょう。
まぁ、自社に合わない人材を採用する時点で採用側の負けではあるのですが……。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など多数。最新刊は『日本をダサくした「空気」』(徳間書店)。