「ペット可」物件が見つからず愛犬も手放した
誤算は日常生活にも及んでいる。
「定年後も同じ会社に嘱託で勤める意向ですが、通勤時間が3倍になり、かなりしんどくなった。足となる路線バスも4月から間引き運行になり、日常の買い物、通院も不便を強いられています」
マイホームを手放した今、もっとも悔やむのは、愛犬を手放さざるを得なかったことだという。
「そもそも高齢者の賃貸入居条件は厳しく、ペット可の物件が見つからなかった。愛犬は親戚に引き取ってもらいましたが、苦労して手に入れ、家族の30年間の想い出が詰まったマイホームを手放すのがはたして最適解だったのか。今になり、後悔の念に駆られています」
病院が近くになくバスと電車を乗り継ぐ羽目に
自宅を売却し住まいを移すことは、生活環境全般が大きく変わるということでもある。その代償は決して小さくない。
特に悩みの種となるのが医療機関の受診だ。50代で都内の自宅を売却し千葉県の郊外に移り住んだ60代男性が言う。
「体のあちこちにガタが来て、病院通いが始まりました。都内なら病院の選択肢が多く、地下鉄など公共交通機関で通えましたが、今はバスと電車を何本も乗り継ぐ羽目に。移動だけでこんなに苦労するとは思わず、『都心に住み続ければよかった』と後悔しています」
ファイナンシャルプランナーで、介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子氏が言う。
「戸建からマンションなどの集合住宅に移った場合、これまでと同じ感覚で暮らしていると思わぬトラブルに発展することがあります。テレビの音が大きいとか足音がうるさいと苦情を言われて、『小さな孫が遊びに来られなくなった』という人もいました」