JR東日本にとってもメリットあり
2つ目は品川の再開発。西武はJR品川駅の西側に品川プリンスホテル、グランドプリンスホテル高輪・新高輪などの不動産を保有している。一方、JR東日本は東側に強く、しかも田町-品川間の大地主で、その広大な敷地にオフィス、マンション、商業施設などを建設する構想を打ち出している。これに西武の不動産を加え、線路を跨ぐ空中も活用して再開発すれば、巨大な新しい街が誕生する。
3つ目は新宿・高田馬場(西武新宿線)、池袋(西武池袋線)での相互直通運転だ。かつて堤家はJR東日本と激しい確執があり、西武新宿線を新宿駅まで延伸する計画もたびたび頓挫してきた。しかし、もはや過去の恨みつらみは水に流して手を結ぶべきである。「昨日の敵は今日の友」なのだ。
一方のJR東日本にとっても、メリットはあってもデメリットはない。
JR東日本は、財務力は抜群に強いが、街づくりは上手いとは言えない。国鉄分割民営化以来のJR東海との根深い対立もある中で、西武と組めば向こう10年ぐらいの巨大プロジェクトが可能になる。西武のメインバンクであるみずほ銀行も経営者を送り込むだけでなく、JR東日本とのウィンウィンの関係構築に積極的に貢献すべきである。
このまま不動産を売却するだけでは、堤康次郎が築き上げた“西武王国”はジリ貧状態になるだろう。それを反転するためには、単なるビジネスモデルの転換ではなく、利用者目線に基づいた大胆な「発想の転換」が必要なのである。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2024~2025』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2024年6月28日・7月5日号