年金繰り上げを活用した「新NISA投資」は本当に儲かるのか(イメージ)
「新NISA(少額投資非課税制度)」と「年金」を組み合わせる投資術がSNSで話題を集めている。本当に“儲かる年金”などという話が実現するのだろうか。専門家とともに検証した。
「年金を生活費に回さなければならない人にはお勧めしない」
注目を集めているのは、「繰り上げ年金投資術」。年金を60歳から繰り上げ受給し、生活費は給料などで賄いながら受け取る年金を投資して資産を増やす方法だ。SNSでこの話題にいち早く反応したのが、『ほったらかしで年間2000万円入ってくる 超★高配当株投資入門』がベストセラーとなっているかんち氏だ。
〈年金は、60歳から繰り上げ受給して、年金支給されるたびに、飲食の優待株買ったり高配当株買って65歳を迎えた方が豊かな生活になる様な気がする〉(6月24日)とXで発信した。
かんち氏にこの投資術について聞くと、「アリだと思います」と語る。
「2か月に1回、年金をもらうたびに株を買えば、今の相場状況なら間違いなく資産は増えていく。どの株を買えばいいかわからないなら米国株を組み込んだS&P500や日本高配当株式ファンドなどの投資信託でもいい。年金受給は税・社会保険料が天引きされますが、新NISAの枠を使えば、株の値上がり益や配当、投資信託の分配金にも税金はかからない。配当をそっくり次の投資に回せば複利で増やせます」
資産8億円超で元消防士のかんち氏は、生活費のすべてを株の配当金と優待券で賄っている。
「私なら配当利回りの高い株や食品関係などで株主優待がついている株を買いますね。そして買った株は貯金と思ってずっと持っています。たとえ株価が上がらなくても配当だけで年3%くらいの利回りは取れるし、株主優待の特典で商品などをもらえば生活の足しになる。ただし、支給された年金は全額投資に回すのが原則。一部でも生活費に回さなければならない人にはお勧めしない」
目安となるのは「年5%の利回り」
65歳から60歳へと5年繰り上げると、年金額は24%減ることになる。そのため一定以上の利益をあげなければ損になる。では、繰り上げ年金投資で儲かるにはどのくらいの利回りが必要だろうか。
目安となるのが「年5%の利回り」だ。Money&You代表でマネーコンサルタントの頼藤太希氏の解説。
「厚生年金の平均受給額(月額約14.4万円)を受け取る人が、60歳まで繰り上げると年金は月額約10.9万円になり、手取りは月額約9.725万円になる。65歳までの合計は約583.3万円。この年金をすべて投資に回して年利5%で運用できた場合、65歳時点の運用資産の総額はざっと644.6万円に増えます」
65歳からは受け取る年金は投資に回さずそのまま受け取り、運用資産644.6万円を年5%で運用しながら90歳で使い切るように元本を取り崩していくと、毎月受け取れる金額は年金と合わせて13.8万円で、65歳受給を選んだ場合の年金手取り額より月9000円プラスとなる。
頼藤氏のシミュレーションの詳細は表の通りだ。
繰り上げ受給した年金を「年5%運用」したらどうなる?
ただ、頼藤氏は「繰り上げ投資」で得するのはそう簡単ではないと言う。
「資産運用で毎年一定の利益を出し続けるのは難しい。全く利益が出ない時期や、リーマンショックのような暴落が起これば資産が大きく減る時もある。繰り上げで年金を減らしてまで投資に回すとなると、運用成績が悪い時期に耐えられるのか疑問です。失敗すれば悲惨だし、たとえ5%前後でうまく運用できても、手取りの増加が月1万円にも満たないのであればリスクに比べてメリットが小さい。65歳から受給したほうが安全でしょう」
年金博士こと社会保険労務士の北村庄吾氏も慎重論だ。
「60歳まで繰り上げるデメリットは24%減額された年金が生涯続くことだけではありません。国民年金の任意加入もできないし、65歳までの5年間に事故や病気で障害を負っても、本来なら受けられるはずだった障害年金を受け取れなくなるなどのデメリットもある」
「お金にも働いてもらう」ことを意識しながら資産運用を考える
もっとも、これが繰り上げ受給した年金ではなく、年金生活での余裕資金であれば話は変わってくる。物価高騰で年金生活も苦しくなる一方だけに、老後資産をインフレからどう守るかは重要だ。そこで新NISAの活用がポイントになる。
ファイナンシャルプランナーの丸山晴美氏が解説する。
「高齢者の投資はできるだけリスクを抑えながらやることが鉄則です。繰り上げ受給で投資するのはさすがに攻めすぎですが、年金生活者は自分で働いて稼ぐことが徐々に難しくなるため、『お金にも働いてもらう』ことを意識しながら資産運用を考えることは大切です。その点、利益等に対する税金がかからないNISA口座での積立投資は最適と言えます。株価指数などに連動するインデックスファンドや債券割合が高い商品に分散しながらバランスよく投資すればリスクは抑えられます」
表は丸山氏と前出・頼藤氏が、年金生活者の新NISAでの運用候補にあげた投資先のリストだ。丸山氏が言う。
年金暮らしの新NISA活用 識者の選ぶ投資先候補
「投資信託は、買う時の販売手数料、売る時の手数料(信託財産留保額)の他に、所有している間も信託報酬を取られます。つみたて投資枠の商品は最初の2つの手数料がかからないものがほとんどですが、運用している時に取られる信託報酬ができるだけ安いものを選ぶことが大切です」
あくまで余裕資金で投資するのが鉄則だ。
※週刊ポスト2024年7月19・26日号