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中国が「完全自動運転システム」導入に向けて実験を加速 テスラは中国市場を重視し、バイドゥと提携

テスラのイーロン・マスクCEOと李強首相が面談

 中国は、ほぼすべての産業を有する世界最大規模の製造大国である。自動車生産量(2023年)は3016万台で、米国の2.8倍、日本の3.4倍、製造業GDP(2022年)は5兆632億ドルで米国の1.9倍、日本の5.9倍だ。もちろん、最先端半導体など、中国国内では手に入らない製品もあるが、広くグローバリゼーション、自由化が進んだ現代では、どの国もお互いに貿易に依存しあう経済構造となっており、その点を考えれば、新しいモノを作るという点で中国の優位性は高い。

 自動運転システムに欠かせないAIの開発についてだが、情報量、トレーニング量が開発を進める上で重要な要素となる。国土が広く、人口、通行車両の多い中国では、集められるデータの数は膨大だ。その上、中国は日米欧などと比較すれば、通行者、自転車、バイクの量が多く、狭い道路、入り組んでいて複雑な道路も多い。一般論だが運転の粗いドライバーが多く、交通状況はいわばカオスに近い。その分、有意義なトレーニングデータが得られるようだ。

 中国はいろいろな面で、高いリスクを許容しても高いリターンを求めるところがあり、社会全体として個人情報の提供について比較的寛容だ。その点もAI開発には有利である。開発の妨げとなる既存の法律、規則の壁、既得権益者による抵抗などについては、トップダウンによる調整が効果的だ。

 テスラのイーロン・マスクCEOは4月28日、予告なしに中国を訪問、李強首相と面談したが、その成果として、最先端の完全自動運転システム(FSD)の中国での使用認可を条件付きで獲得している。百度(バイドゥ)と地図、ナビゲーション技術で提携しており、今年6月には百度の地図“V20版”がAMDチップを搭載したすべてのテスラ車(モデルS、3、X、Y)対応用として発売されている。テスラは単独ではなく、百度などの中国有力企業と組むことで中国市場への積極的な参入を図っている。

 日本では、トヨタがAI、ビッグデータ、クラウドなどの分野でテンセント、自動運転の分野で百度、子馬智行と提携、協業している。日産はAIなどで百度と提携している。

 米国の対中政策は秋の大統領選挙を経て、懲罰関税が引き上げられ、対中投資規制が強化される可能性もありそうだが、中国市場と米国市場のどちらか一つを選ばせるような事態はグローバル企業にとって大きな災難だろう。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。

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