女子枠も「物理を履修」を出願条件とする理由
――女子枠入試を含めて、総合型選抜入試(※注)を芝浦工大は実施されていますが、評定偏差値や履修科目、そして、英語テストのスコアなどの出願資格はそれなりに厳しいですね。特に女子枠でも20学科中13学科で、高校で物理を履修していることが必須。物理を選択している女子生徒は多くないからハードルは高くなると思いますが。
【※注/エントリーシートなどのほか、面接や論文、プレゼンテーションなどを課し、受験生の能力・適性や学習に対する意欲などを総合的に評価する入試方式】
「女子学生には是非、本学に入学してほしいと思っておりますが、入学後に工学の専門領域を学ぶためには、数学、物理学の素養は必要です。そのため、本学では出願資格をきちんと設定しています。『女子枠』の導入後は女子生徒のイベント参加も増えています。今年度の全入学者の中で女子の比率が26.6%と2023年度の21.2%より約5ポイント上昇しました」
――総合型選抜という入試のスタイルには疑問を呈したり、反発する人たちも多いですね。学力重視の入試であるべきだという考えもありますが。
「本学では女子枠を含めて総合型選抜で入学した学生の成績が劣っているということはありません。総合型選抜の学生は『芝浦工大でこういったことを学びたい』と明確な希望や意思を持って入学しているので、入学後もモチベーションや成績の伸び率が高く退学率も低いことが追跡調査で分かっています。
本学の学生は毎日、大学に通学して、多くの授業に出たり、実験・演習も受けますから、ミスマッチが生じるとなかなか大変だと思います。総合型選抜では、大学入学以降の専門的な学びへのモチベーションや学習計画、将来のキャリアの希望なども把握し、学力以外の部分も多面的に評価しますので、ミスマッチをできるだけ回避できると考えております」
取材の後に芝浦工大の豊洲キャンパスを見学したが、現代風の開放的なデザインの内装で、庭には緑も多い。最新鋭の実験や実習の設備と共に、フリースペースがたくさん設置され、そこで勉強をしている学生の姿が目立った。昨今は修士課程に進んで専門性を高める学生も増えているそうだ。そうかと思えば、ビニールのボールでゲームをする学生たちの姿もあった。10人ほどのグループで楽しそうな声をあげていたが、そこには複数の女子たちもいて元気にボールを追っていた。留学生たちが英語で課題について話し合っている声も聞こえ、まさにキャンパス内の多様性がそこにはあった。
少子化の中で、どの大学も生き残りをかけて創意工夫や努力が必要となるが、工学部は今後、どう女子学生を取りこんでいくかが大きなテーマであろう。「女子枠」入試が話題になることで、女子生徒が工学部に関心を持つようになることは素晴らしいことにも見えよう。「女子枠」入試も含めて、工学部がどう多様性を広げていくかに注目をしたい。
(了。はじめから読む)
【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『中学受験ナビ』(マイナビ)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)で連載をし、『週刊東洋経済』『週刊ダイヤモンド』で記事を書いている。