東京工業大学や京都大学など国立大学の工学部で「女子枠」入試の導入が話題を集めている。大学がそうした動きを進める背景には何があるのか。また、女子枠をはじめとした総合型入試の選抜には賛否両論があるが、その実態はどのようなものか。『中学受験 やってはいけない塾選び』が話題のノンフィクションライター・杉浦由美子氏がレポートする。【前後編の後編。前編から読む】
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京都大学や東京工業大学などの工学部が、女子学生比率を上げるために「女子枠」入試を導入し、話題になっている。共学の大学で「女子だけが受けられる入試枠」があるのを「不平等だ」「男子が差別されている」という批判もあるが、その裏には長年、「就職実績がいいのになぜか女子学生から敬遠される」という工学部の悩みがある。この問題について、芝浦工業大学のアドミッションセンター長の新井剛工学部教授に話を訊いた。
芝浦工業大学は私立大学の中ではトップレベルの就職好調ぶりで知られる人気大学だ。その芝浦工大は2018年から「女子枠」入試を始めている。前回記事では女子が工学部に進学をしない理由として、「進路を決める時のバイアス」があるという話を紹介した。女子は工学部の先にある工業の世界で、具体的に自分がどんな仕事をするかを想像をしにくいためだという。しかし、一方で工学部の女子は企業からのニーズも非常に高いという。そのあたりの事情について引き続き訊いていこう。
――工学部の女子学生は非常に就職が好調で、数も少ないから引く手あまただとよく聞きます。それと同時に工業の世界は、ジェンダーだけではなく多様性が必要だということですね。昭和の「男社会」ではやっていけないと。
「以前は世界中の家庭が日本製品であふれていましたが、今は中国や韓国などのメーカーの製品が主流になっています。日本の産業の中ではサブカルチャーがとても成長していますが、それだけでは国全体を支えるものにならないと考えますし、我が国の工業立国復活は極めて重要だと考えています。工業はイチからものを作り出すクリエイティブなものです。
そのためには、それを学ぶ大学において性別、国籍、年代等の多様性が非常に大切だと思っており、本学では女子枠だけではなく、国際性や地方の学生等への支援制度をきめ細やかに実行しております。多様性のある環境の中で工学を学び、感性を養って、将来、我が国の工業立国復活を支える人材になってほしいと思います」(新井教授・以下同)