精密小型モータで世界トップのニデック(旧・日本電産)、電子部品大手の京セラ、世界的エンタメ企業の任天堂、セラミックコンデンサで世界首位の村田製作所……これらのグローバル企業には本社を「京都」に置いているという共通項がある。なぜ、京都から次々と世界で戦えるビジネスが生まれるのか──。
個々の企業の力だけでなく、京都企業は業種をまたいだ「横のつながり」が強固なことも特徴だ。様々な伝統工芸の職人が異業種交流をして、切磋琢磨してきた文化は今も根強く残っている。
現代において、京都の有力企業トップが一堂に会するのは、三菱UFJ銀行主催の「31社会」だ。毎年12月、京都・祇園のお茶屋で開かれるその会合にはニデック、島津製作所、堀場製作所など京都企業のトップが集結する。
堀場製作所の創業者・堀場雅夫氏の長男である堀場厚・会長兼グループCEO(76)が言う。
「その集まりで面白いのは、席次が売り上げや企業規模で決まっているのではなく、社長や会長をやっておられる歴が長い方が上座に座ることです。これも京都らしさかもしれません」
もともとは旧・三菱銀行をメインバンクとする京都企業が多いことから、31社が集まる会合が始まったとされる。堀場氏が続ける。
「ワコールホールディングスの塚本(能交・名誉会長)と私は小学校の同級生でいつも同じあたりの席に座っています。ただ、横のつながりは馴れ合いではありません。本当に実力があるのか常に厳しい目にさらされ、切磋琢磨して共に成長していけるような好循環を生んでいます。そうした場で情報交換し、時には手を組んで製品をともに開発することもあります」
一例に、島津製作所と堀場製作所のコラボで2021年に発売された計測機器「LCラマン」がある。島津の計測対象を「分ける」技術と堀場の分子構造の違いを判別する「見る」技術を融合し、共同開発したという。
京都経済同友会代表幹事で京都信用金庫理事長の榊田隆之氏はこう言う。
「京都は日本を代表する観光都市とはいえ、東京や大阪よりコンパクトで、人口も少ない。だからこそ、企業同士に顔の見える関係がある。お互いにプライドを持ちながら連携も取りやすいのです」
産学連携も真剣勝負
濃密な「産学連携」も特徴のひとつだ。
たとえば、堀場氏が会長を務める産学連携団体「京都クオリアフォーラム」には7大学・8企業のトップが集う。
「こうした定期的な会合には、大学側からは学長や副学長、企業サイドからは会長や社長などトップ自らが参加します。代理などは立てず、真剣に取り組んでいます」(堀場氏)
経営戦略に詳しい高橋義仁・専修大学商学部教授もこう分析する。
「京都は10万人あたりの大学数や総人口に対する大学生の割合が全国1位の『学生の街』であり、産業界は京都大学をはじめとする地元の大学が生み出す“イノベーションの源泉”を積極的に取り込もうとする機運が高い。世界的にも、アメリカのシリコンバレーやボストン、イギリスのケンブリッジなど新たな産業が生まれるところには例外なく有力な大学があり、同じような強みが京都にはある。何より京セラや村田製作所など戦後生まれのベンチャーが大きく成長したこともあり、ベンチャースピリットが広く根付いていると言えます」
前出・榊田氏は京都信用金庫の理事長として、起業家のサポートにも尽力しているが、「企業や大学同士のつながり、それに伴うベンチャー企業の盛り上がりは年々増していると感じます」と話す。
ただ、そこには課題も残っているという。
「京都は横のネットワークが比較的濃い地域ですが、企業同士も大学ももっと多層的で有機的なつながりと良質な交流ができるといいと思っています。それぞれプライドを持ちながら切磋琢磨することで、京都はより進化した街になっていける。それが実現できれば、成熟型社会における成長モデルを日本全体に示せるのではないかと考えています」(榊田氏)
強い個性を持ちながら、交流を重ねてさらなるイノベーションを生み出していく──それもまた、京都企業の強みと言えそうだ。
※週刊ポスト2024年8月2日号