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【ヒトはなぜギリギリまでやろうとしないのか】「先延ばし」は脳にプログラミングされた「クセ」 「理性的な新しい脳」は「本能的な古い脳」の怠惰に負けやすい

 驚くべきことに、2007年にスティール教授が行ったメタ分析(複数の研究結果の分析)によれば、大学生の80~95%はこの「プロクラスティネーション」(先延ばしグセ)に苦しめられていることがわかっています。また、そのようなクセがある人のことを「プロクラスティネーター」(procrastinator)と呼ぶそうです。

 決して名誉なことではありませんが、「自分のクセに専門用語がある」とわかると、なんだかすこし安心しますね。

 このように「先延ばしをする」ことは、人類共通の大きな悩みなのです。

脳は「先延ばし」をするようプログラミングされている

「先延ばしをする」とき、脳で何が起こっているのか、専門的に解説してみましょう。おおまかに言うと、脳には「本能的な古い脳」と「理性的な新しい脳」がある、という説はご存じでしょうか。

 どちらかというと動物的で、闘争心、恐れなど本能的な感情をつかさどる「大脳辺縁系」。将来のことを考えるなど、人間らしい知性をつかさどる「前頭前皮質」。脳では、この2つがせめぎ合っているとイメージしてみてください。

 本能的な古い脳と、理性的な新しい脳。そのときどきで、どちらが優位に立つかで、行動ががらりと変わります。

 本能的な「大脳辺縁系」の特徴は、常に活性化していること。だから、いつでもすぐに行動できるのです。ただし将来について、深く考えるということは苦手です。「そのとき気持ちよければいい」とラクな方向に流されてしまいがちです。

 一方、理性的な「前頭前皮質」の特徴は、動きが遅いことです。大脳辺縁系に比べると、なんでも時間がかかります。

 この2つを擬人化して想像してみてください。ラクな方向に流されやすく、フットワークが軽い大脳辺縁系を、理性的ではあるけれどもスローな前頭前皮質が阻止したり、説得したりすることは、非常に難しい。

 両者は、宿命的にこのような“困った関係”でつながっているのです。

 このような「理性的な前頭前皮質が、本能的な大脳辺縁系に負けやすい」という力関係は、人間の生まれついての仕様です。ただし、それが一生続くわけではありません。努力や意識や訓練次第で、両者のパワーバランスを変えることはいくらでも可能です。その点こそ「ヒト」が「人間」たるゆえんでしょう。

 古い脳と、新しい脳のパワーバランスを変えるカギ。それは、前頭前皮質の活性化にあります。

 脳には「可塑性」という性質があり、形を変えられる可能性が残されています。

 たとえば、前頭前皮質を活性化させるには、「深く考えること」が有益であることがわかっています。実際、深く考えて行動したとき、大脳辺縁系の一部である「扁桃体」(へんとうたい)が収縮して「灰白質」(はいはくしつ)という部位が増えるという報告があります。つまり、「脳の構造は変えられる」ということです。

「灰白質」とは耳慣れない言葉かもしれません。平たく言うと、神経細胞の集まりのこと。脳味噌をイラスト化したとき、シワシワの塊として描かれる部分を指します。

 灰白質は、さまざまな情報処理を行う部位です。高度な処理のほとんどを担うため「灰白質は多ければ多いほどよい」というのが定説です。

 つまり、よほど意識をして脳に働きかけていかない限り、脳は構造的に「先延ばしをする」ようプログラミングされている、とも表現できるのです。

『すぐやる脳』(サンマーク出版)より一部抜粋して再構成

【プロフィール】
菅原道仁(すがわら・みちひと)/脳神経外科医。1970年生まれ。杏林大学医学部卒業後、クモ膜下出血や脳梗塞などの緊急脳疾患を専門として国立国際医療研究センターに勤務。2000年、救急から在宅まで一貫した医療を提供できる医療システムの構築を目指し、脳神経外科専門の八王子市・北原国際病院に15年間勤務し、日々緊急対応に明け暮れる。その後、2015年6月に菅原脳神経外科クリニック(東京都八王子市)、2019年10月に菅原クリニック 東京脳ドック(港区・赤坂)を開院。著書に『そのお金のムダづかい、やめられます』(文響社)、『成功する人は心配性』(かんき出版)、『成功の食事法』(ポプラ社)などがある。

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