仕事でもプライベートでも、何事もすぐに取りかかれればいいと頭ではわかっていても、なかなかできないことは少なくない。どうして「先延ばし」してしまうのか。著書『すぐやる脳』が話題の脳神経外科医・菅原道仁氏が解説する。
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私も「先延ばしをする」という心理は、非常によく理解できます。子どもの頃は、夏休みの宿題をギリギリまで着手しなかった記憶があります。
大人になり医師になってからは、本業の範囲で「先延ばしをすること」はもちろんありません。けれども依頼された原稿の執筆などとなると、締め切りは死守しつつも、やはりギリギリのスケジュール感覚になってしまいます。
自己弁護するわけではありませんが、これらは心の正常な「防衛機制」であり、むしろ怠惰で省エネ型の脳らしい行動である、と先に申し上げておきましょう。
その証拠に、先延ばしグセについて、悩む人は世界中に存在します。科学の世界では、大きなひとつの研究ジャンルとなっているくらいです。「頭がいい」とされている人も、すでに立派な功績を残している人も、「先延ばしをする」という脳のクセと日々格闘していると言えるでしょう。
このような「先延ばしをする」現象のことを、心理学の用語で「プロクラスティネーション」(procrastination)と言います。「先延ばし」の研究で知られるカナダ・カルガリー大学のピアーズ・スティール教授は「プロクラスティネーション」を次のように定義しています。
「遅れることで、状況が悪化すると予測されているのに、予定していた行動を自発的に遅らせること」
日本語にはなかなか訳しにくい長い英単語ですが、そのニュアンスはよくわかる気がしませんか。
英語圏ではポピュラーな言葉で、次のように使われています。
One of my problems is procrastinating.(私の問題のひとつは、先延ばしをしてしまうことです)
I need to stop procrastinating.(先延ばしは、やめないとなぁ……)