河合雅司「人口減少ニッポンの活路」

今やキャリア官僚は「エリートの職業」から「割に合わない仕事」に 「霞が関文学」の書類作成を何度もやり直す“不毛な作業”にやりがい喪失

やりがいを感じられず、若手官僚が退職するケースも少なくないという(イメージ)

やりがいを感じられず、若手官僚が退職するケースも少なくないという(イメージ)

 東大生の「キャリア官僚離れ」が進んでいる。国家の政策の企画立案などに携わる総合職と言えば、「キャリア官僚」と呼ばれる各省庁の幹部候補であり、東京大学出身者が例年トップを占めてきた。2024年の春試験における合格者は、東大はトップをキープしたものの前年の春試験より4人少ない189人で、過去最少を更新。全体の1割にも満たず、10年前と比べると半減しているという。その要因はどこにあるのか?

 人口減少問題の第一人者で、最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』が話題のジャーナリストの河合雅司氏(人口減少対策総合研究所理事長)が解説する(以下、同書より抜粋・再構成)。

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 昨今の「キャリア官僚離れ」について、官僚OB、OGの中には、天下りが規制されたことの影響を指摘する声が少なくない。かつてのように「官僚時代は安月給でも退職後に天下りルートに乗って多額の報酬を得られるので、民間に勤めるより生涯収入は多い」と言えなくなったことが官僚離れを加速させているというのだ。

 大企業は、少子化が進む中でより良い人材を確保すべく給与水準をどんどん引き上げている。優秀な学生たちの多くにとってもはやキャリア官僚は「エリートの職業」とは映っておらず、「割に合わない仕事」になり下がってしまったということだ。

 優秀な学生を遠ざけている大きな要因はもう1つある。政策決定プロセスの変化だ。

 1990年代までは「官僚主導」であったが、経済財政諮問会議を積極的に活用した小泉純一郎内閣以降は「政治主導」が強まり、2014年に内閣人事局が設置されて国会議員が幹部官僚の人事権を握ると首相官邸に権限が集中し「官邸主導」へと切り替わった。

 選挙で選ばれた国会議員が政策や人事をトップダウンで決めることについては「スピード感のある政治の実現」という評価の声がある一方、裁量権を制約される形となった官僚には「創意工夫の余地が少なくなった」との受け止めが広がっている。

 行きすぎた「官邸主導」が散見されるようになったこともあって、官僚全体に委縮の傾向が広がり、“やりがい”が急速に失われているのである。

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