WHOは「2023年までに全廃する」との目標
こうした研究を受け、各国は食品へのトランス脂肪酸の含有について規制に動き出した。
「アメリカではニューヨーク市が2006年、カリフォルニア州が2010年から、レストランなどの飲食業者に対し、トランス脂肪酸の規制を始めました。2015年には米食品医薬品局(FDA)が、トランス脂肪酸を生み出す部分水素添加油脂について『一般的に安全とは認められない』とする判断を示し、2018年からメーカーに対して食品への使用を規制しました」(同前)
2018年には、WHO(世界保健機関)がトランス脂肪酸の食品への含有を「2023年までに全廃する」との目標を掲げ、その勧告に応じて規制を導入した国は2022年末時点で46か国に達している。
ただし、規制を設けた国々でも、トランス脂肪酸の「含有ゼロ」は達成できていないのが現状だ。だからこそ各国は、製品パッケージへの「表示義務」を設けて消費者への情報開示を徹底している。
アメリカでは、2006年からトランス脂肪酸の食品への含有量の表示が義務づけられ、スーパーで販売されているパンや菓子のパッケージには栄養成分表示欄に「トランス脂肪酸(Trans Fat)」の含有量が明記されている。ほかにもカナダ、シンガポール、台湾、香港、フィリピン、中国、韓国などが、食品中のトランス脂肪酸の含有量の表示を義務づけた。
そうしたなか、日本ではいまだに「含有量」の規制も、「表示義務」も定められていない。前出・井上教授が語る。
「含有量の規制と表示義務は両輪だと考えますが、とりわけ食品ラベルへの表示義務がないことは問題です。
重要なのは、パッケージを見た消費者がトランス脂肪酸の有無を確認したうえで、購入するか否かを選択できることです。表示義務がないということは、“消費者は知らなくていい”と言っているに等しいのです」
そこで週刊ポストはトランス脂肪酸を含む代表的な食品である食パンと菓子パンの含有量を調査。製パン大手3社(山崎製パン、フジパン、敷島製パン)が販売するトランス脂肪酸を含むパン計204商品をリスト化した。
製パン市場シェアの9割を占めるこの3社は、ホームページ上で各商品のトランス脂肪酸を含めた成分表を公表しているが、「パッケージに記載がなければ、消費者が購入時の判断材料になっているとは言い難い」と井上教授は指摘する。