WHOが全廃目標を掲げていることの見解を問うと、「食品等事業者への指導に関しては所管外ですので、当庁としては、お答えできることはありません」(食品衛生基準審査課規格基準係)との回答だった。
食品の安全確保に関する施策を担う厚生労働省に聞いたところ、「食品に含まれる基準値の話ですので、消費者庁、食品安全委員会でお答えいただくものと存じます」(健康・生活衛生局食品監視安全課)と“たらい回し”の回答。内閣府・食品安全委員会に問うと、2012年に同委員会が行なったトランス脂肪酸のリスク評価を参照し、次のように回答した。
「2012年のリスク評価取りまとめで、『日本人の大多数がWHOの勧告(目標)基準であるエネルギー比1%未満であり、また、健康への影響を評価できるレベルを下回っていることから、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられる』と評価しております」(事務局情報・勧告広報課)
各省庁の回答に対して、食用油の研究を専門とする慶應大学医学部の井上浩義教授はこう指摘する。
「国の説明を要約すると『日本人のトランス脂肪酸摂取はエネルギー比1%未満だから安心』とのことですが、そもそも摂取量のデータが古く、現代人の食生活に合致しているか疑問です。
トランス脂肪酸の健康被害は世界が認めるところであり、各メーカーの低減努力頼みでは限界がある。国が責任をもって表示義務や含有規制などの法的な枠組みを整備すべきです」
誰もが口にするものだからこそ、安全が脅かされたままで良いはずがない。
(了。前編から読む)
※週刊ポスト2024年8月30日・9月6日号