本来ならもっと早く抜本改革すべきだったが
問題は、現役世代の人数が著しく減っていることだけではない。賃金上昇が進んでこなかったため、社会保障費の伸びが雇用者総報酬の伸びを上回る状況に陥っており、現役世代に過度の負担を求める状況になっている。
本来ならばもっと早い段階で社会保障制度を抜本改革する必要があったはずだが、政治の不作為があった。選挙への影響を懸念する国会議員には、高齢有権者に不人気な政策を敬遠する傾向が強い。
このため、世論の反発が強い増税を避け、国民が気づきにくい給与天引きで社会保険料を引き上げるという姑息な手段を繰り返してきたのである。
結果的に、現役世代が負担する社会保険料は急上昇してきた。財務省が例に挙げている協会けんぽの場合、報酬に占める割合は2000年には22.7%だったが、2023年は30.1%だ。2040年には32.6%になる見込みである。
この結果、国民負担率も上昇し、2024年度の国民負担率は45.1%と所得の半分近くを占めている。収入が増えても税金や社会保険料として半分近くが消えて行く現状は、現役世代のやる気を削ぐ。SNS上には「五公五民」といった若い世代の不満の声が渦巻いている。
だが、全世代型社会保障への移行は政府の思惑通りには進みそうにない。高齢者の暮らしも決して楽ではないからだ。
【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)など著書多数。最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)では、「今後100年で日本人人口が8割減少する」という“不都合な現実”を指摘した上で、人口減少を前提とした社会への作り替えを提言している。