日本では、平均寿命が延びており、「より年配の高齢者」が増えている。総人口に占める80歳以上人口の割合は10.1%で、将来的には2割に達するとの推計もある。社会保障費が膨張する中で、政府が「次なる手」として考えたのが「全世代型社会保障」だ。「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心」という構造を改め、年齢を問わず個々の負担能力に応じて支える形にしようというのだが、その実現は容易ではない。何がハードルとなっているのか?
人口減少問題の第一人者で、最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』が話題のジャーナリストの河合雅司氏(人口減少対策総合研究所理事長)が解説する(以下、同書より抜粋・再構成)。
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厚生労働省の国民生活基礎調査(2022年)によれば、高齢世帯の平均所得金額は318万3000円で、「高齢者世帯以外の世帯」の665万円と比べて半分程度である。
一方で、世帯人員1人あたりの平均所得金額は、65歳以上が206万5000円に対し、29歳以下は245万1000円、30代は221万9000円、40代は239万5000円で大きな差があるわけではない。こうした点が「全世代型」を目指す理由の1つとなっている。
しかしながら、年齢を重ねるにつれて所得は減り、70歳以上は194万6000円だ。厚生労働省の別資料によれば、75歳以上の過半数は150万円未満である。
しかも、公的年金制度には将来の年金財政や現役世代の負担を考え、「マクロ経済スライド」という仕組みで年金の給付額を物価や現役世代の賃金の伸び率よりも抑制する。物価高の伸びに年金額の上昇が追いつかないということは、実質的な減額である。「マクロ経済スライド」によって、年金受給世帯における相対的貧困率(等価可処分所得の中央値の半分に満たない世帯員の割合)が高まることを懸念する声もあるのだ。
公的年金が収入の主柱である高齢者は、支出が増えたからと言って簡単に所得を増やせるわけではない。
働く高齢者は珍しくなくなったが、現役時代のような水準の所得を得られる人は稀だ。岸田文雄首相は「インフレ率を超える賃上げの実現」を訴えているが、週に数日働いて年金収入の足しにしている高齢労働者の懐がそう簡単に潤うわけではないだろう。
「老後資金2000万円問題」が大きな話題を呼んだことでも分かるように「公的年金だけでは暮らしていけない」という人が大多数である。勤労所得を増やすことが難しく、年金受給額はインフレ率を下回るように調整されるダブルパンチだけでも大変なのに、全世代型社会保障改革によって医療や介護の高齢者負担増が加わったのではトリプルパンチとなる。現在のような急速な物価高に見舞われる局面においては生活に支障が生じる人も出てこよう。