深刻なのは「消費者」の減少
しかしながら、政府だけでなく、国会議員にも、地方自治体の首長にも、企業経営者の多くにも「現状維持バイアス」が働いているから厄介だ。自分の任期中だけでも何とかこれまでの経験にのっとった成功や成長を維持できればいいということだろう。
例えば、外国人の受け入れ拡大だ。「不足分を手っ取り早く穴埋めすればよい」という発想である。だが、これには限界がある。日本人の勤労世代の減少規模があまりにも大きく、それを補充するだけの労働者を日本だけに送り出せる国は見当たらない。要するに「焼け石に水」なのである。
企業単体で捉えるならば、外国人労働者は人手不足対策の有効策である。外国人抜きには回らないという業種も少なくない。だが、人口減少社会において不足するのは「働き手」だけではない。むしろ深刻なのは「消費者」の減少のほうだ。仮に、1つの企業レベルで人手不足を解消し商品の生産体制を維持・拡充できたとしても、商品を買ってくれたり、サービスを利用したりする消費者が少なくなったのでは、結局は事業を継続できない。
人口減少が先行して進む地方に対する対策も似たり寄ったりである。いまだに地方分権とか道州制を人口減少対策の切り札のように語る人が少なくないが、これらも周回遅れの見解だ。もはや地方分権でどうにかなる段階ではなくなった。
最近では、“地方消滅”という言葉が躍っていることもあって、多くの地方自治体が移住者受け入れ促進に一生懸命だ。だが、これも大きくズレた取り組みだと言わざるを得ない。「不足分をどこからか引っ張り込んで穴埋めできればいい」という考え方は外国人の受け入れ拡大と同じである。問題は日本全体の人口が減ることなのだ。大きなコップの底に穴が開いて水が漏れだしているというのに、小さなコップに小分けしてどちらが多いと競っても仕方がないだろう。そうしている間にも、全員が水を飲めなくなる。