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《福岡伸一教授が教える「利他的な脳」》最新研究で明らかになる遺伝子に備わった「人助け」をするしくみ「積極的に他者を助けると、生物として強く、幸福に生きられる」

執着を手放す周りに還元する

 では、回路を強化させ、与えられた利他性を最大限生かすためには何から始めるべきだろうか。

「リスペクトできる、接していて気持ちがいいと感じる人、こういうふうに生きられたら素敵だと思う人をロールモデルとして、生き方を真似してみることです。

 直接の知り合いでなくてもかまいません。ちなみに私のロールモデルは優しい眼差しで昆虫を観察し続けたファーブル先生と、世界中で愛される児童文学の主人公・ドリトル先生です。動物と会話ができるドリトル先生は次々やってくる動物たちの病気を無償で治してあげる“利他性”を体現したような暮らしをしています。たまに動物たちの助けによって大儲けすることもありますが、そのお金も誰かのためにすぐに使ってしまい、元のすっからかんの生活に戻ります」

 お金にも名誉にも執着せず、周りに還元しようという姿勢こそ人生を幸福にする秘訣だとドリトル先生の物語から教えてもらったと福岡さんは話す。

「最近は“老後のためにしっかりためておかないと……”という不安が募るあまり他者に還元することをためらう人も多いですが、いま持っているものを手放し、流出させることで“利他的な脳”を活性化させられることも、覚えておいてほしい。

 そもそも年を重ねると、老化によるさまざまな弊害が出てくるのは当たり前。高齢者の経験や知恵は社会全体を支えるための非常に重要な“利他的資本”ですから、本来なら政府や自治体が支えるべきで、老後のために蓄財を強いられるいまの社会はおかしいのではないかとも感じます」

 ただし、社会的な還元が幸福をもたらすといっても身を削ってまで他者に与える必要はない。

「自分にとって必要な資源が100ならそれは持ち続けておくべきで、無理して誰かに手渡さなくていい。

 ただ、生きていれば運よく、110や120の収穫を得ることもありますよね。その場合の10や20の余剰は、ため込まずに誰かに流し、フローしていった方がいい。

 自然界の生き物は、過剰に餌を持っていても腐らせてしまうだけなので、周囲にパスをまわします。人間も同じであり、それが本来の利他のあり方だと言えるでしょう」

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