「早く帰れ」では勝負にならない
──高度経済成長期からバブル崩壊までは、日本人の「働き過ぎ」が指摘されていました。しかし近年は「働き方改革」が叫ばれ、どの会社でも管理職は「早く帰れ」と促します。もちろん短時間でも熱意を持って、効率よく働けばいい訳ですが、「働き方改革」の副作用として今の日本人は「働かない国民」になっているような気がします。「熱意がない」というのはその表われですね。
「新経連は仕事観の改革について提言をしています。インターネットの出現による第四次産業革命やAI(人工知能)の普及で社会のあり方が根本から変わろうとする中、働き方の多様性を確保した上で、雇用の流動性を高めていく必要があります。
一律的な規制強化だけでは国際競争力が衰退する恐れがある。AIが急速に発展していく中で、個人には創造的な業務を担う力が求められ、企業には、高付加価値な労働への移行に対応することが求められています。
協定(時間外・休日労働に関する協定)で定めた労働時間の上限は、当然ながら守られなければなりませんが、一律的な上限の設定は日本の競争力を削ぐ恐れがあります。日本以外の国のベンチャーや、IT企業などの知的社会型対応企業の従業員は、猛烈に働いています。日本だけ『早く帰れ』では勝負になりません。健康管理の枠組みの整備を前提とし、こうした伸び盛りの企業については、新たな労働制度の創設を検討する必要があると思います」
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【聞き手】
大西康之(おおにし・やすゆき)/1965年生まれ、愛知県出身。ジャーナリスト。1988年早大法卒、日本経済新聞社入社。日経新聞編集委員などを経て2016年に独立。著書に『起業の天才! 江副浩正8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)、『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』(小学館)など。
※週刊ポスト2024年9月20・27日号