使用しなくても作れる
それだけではない。IARCの発がん性分類で「グループ1」に次ぐ「グループ2A」に分類されている添加物に、亜硝酸塩がある。市販のハムやソーセージ、ベーコンなどには、亜硝酸塩の一種である「亜硝酸ナトリウム」が含まれている商品が多い。
発がん性分類「グループ2A」は〈ヒトに対しておそらく発がん性がある〉と定義され、「ヒトにおいて発がん性の限定的な証拠がある」、「実験動物において発がん性の十分な証拠がある」場合に適用される。前出・大西医師が解説する。
「亜硝酸ナトリウムは、体内で胃酸などと反応して、発がん性リスク物質であるニトロソアミンという化合物に変化します」
本誌・週刊ポストはハム大手4社(日本ハム、伊藤ハム米久ホールディングス、プリマハム、丸大食品)の商品から、亜硝酸ナトリウムを含むものを抽出し、123商品の実名リストを作成した(別掲の表を参照)。
NPO法人・食品安全グローバルネットワーク事務局長で添加物メーカーに勤務経験のある中村幹雄氏が説明する。
「亜硝酸ナトリウムはハムやソーセージなどの加工肉をきれいなピンク色にする発色剤の役割を果たします。使わないと肉本来の色味になり、使用したものに比べるとやや灰色がかったような印象を受けるはずです」
一方で、発色以外の目的で亜硝酸ナトリウムを添加する事情もあるという。中村氏が続ける。
「ボツリヌス菌の繁殖の防止などの食中毒対策や、商品を日持ちさせる目的もあります。冷凍技術が発達していない時代に使用され始めた経緯があり、現在でも製造過程で亜硝酸ナトリウムなどを含む液体を肉の原材料に注射する方法が一般的です」
亜硝酸ナトリウムの摂取量については、WHO傘下の食品添加物専門会議(JFCFA)が1日摂取許容量を「体重1キロあたり0~0.07ミリグラム」と定め、日本の食品衛生法もこの基準値に準じている。体重70キロの成人男性の場合、最大4.9ミリグラムとなるが、中村氏はこう話す。
「化学合成添加物の1日摂取許容量については、基準値を下回っても心疾患などのリスクが示されたケースがあり、許容量未満だから安全だとは言い切れません」
現在は「無塩せき」と呼ばれる、亜硝酸ナトリウムを使用せずに製造した加工肉商品もある。
代表例が信州ハム(長野県上田市)の「グリーンマーク」シリーズだ。大手でも、日本ハムの「アンティエ」シリーズや、米久(伊藤ハム米久ホールディングス)の「御殿場高原無塩せきあらびきポーク」などがある。スーパーでもPB商品として「無塩せき」を売る企業が増えている。こうした商品は基本的に、パッケージに「無塩せきハム」などと記載されている。
「無塩せき」の商品を販売する大多摩ハム(東京都福生市)の広報担当者はこう語る。
「亜硝酸ナトリウムを使用しないと抗菌作用が薄れ、賞味期限が平均で10日ほど短くはなりますが、無菌室など衛生管理を徹底、社内での理化学検査、外部の検査機関での細菌検査を実施することで添加物を使用しない商品を作ることはできます」
(後編に続く)
※週刊ポスト2024年9月20・27日号