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高橋洋一氏が総裁候補を語る 「石破茂・元幹事長が私との会合に日銀の幹部を連れてきた理由」、小泉進次郎氏は「中身がないと言われて仕方がない面もある」

自民党総裁選に立候補した9人(時事通信フォト)

自民党総裁選に立候補した9人(時事通信フォト)

 9月27日に投開票される自民党総裁選は史上最多の9人が立候補し、「派閥なき総裁選」としてこれまでにない乱戦が予想されている。財務省出身で、小泉純一郎・元首相や安倍晋三・元首相など国を率いるリーダーたちを見てきた元内閣参事官の嘉悦大学教授・高橋洋一氏が、財務省をはじめとした官僚組織任せにせず、国民のための決断ができる政治家の条件を語った。

解雇規制の問題についてファクトを提示した高市早苗氏

――国民に寄り添った決断をするには、政治家に政策理解は欠かせません。

「例えば河野太郎・デジタル相や小泉進次郎・元環境相が解雇規制の緩和・見直しに言及していますが、出馬会見でこの点を聞かれ、すかさず『日本の規制はキツ過ぎるかというと、そうではない』とファクトを提示していたのは、高市早苗・経済安保相でした。アドリブで聞かれて答えられるのは、政策の勉強を欠かさないからでしょう。

 実際、経済協力機構(OECD)の指標で比べると、『解雇回避努力義務』といった日本の規制はアメリカやイギリスのアングロサクソン系の国に比べると厳しいが、欧州大陸諸国に比べると緩いのが実情。むしろ、リストラ名目の解雇整理が進んでいる現実を踏まえると、『解雇規制の明確化』のほうが目指すべき方向性だと思います。さらにアングロサクソン並みに緩めるなら、それらの国には中央銀行に雇用の維持の責務というセーフティネットがあることを考慮しなければいけない」

――政治家の政策理解力や判断力はどう見分ける?

「かつて総裁選の前に、ある経済人の仲介で石破茂・元幹事長に会ったことがあります。もちろんその経済人は石破氏のためを思って、私を紹介しようと思ったそうです。ところが、何を思ったのか石破氏は、その席に日銀の幹部を連れてきた。

『緊縮路線に批判的な高橋に言いくるめられたくない』と思ったのかもしれませんが、その経済人もびっくりしていました。それぞれの意見を聞いた上で自分で判断すればよいのに、それが難しいと考えたのかもしれません」

「うん」「わかった」「任せる」しか言わない

――小泉氏についても、「中身がない」といった批判が出ています。

「そう言われても仕方ない面があるのは確かですが、私が官邸スタッフとして郵政民営化を手伝った小泉氏の父、純一郎元首相も似たところはあった(笑)。総理執務室で純一郎氏へのレクに何度も立ち会いましたが、その際、純一郎氏から発せられる言葉は『うん』『わかった』『任せる』の3つしかない。

 官僚としてはやりやすくはあるが、何に関心があるのかよくわかりませんでした。ただ、例外のテーマがあって、それが郵政民営化。そのために竹中平蔵氏が大臣として起用され、私も竹中氏を手伝うことになりました。ですから私は、どういう助言者で周りを固めるかが、総裁候補にとって重要だと考えています」

――純一郎元首相と財務省との距離感は?

「もともと大蔵族と言われていたけれど、実際には必ずしも財務省の思惑通りに動くわけではなく、財政再建至上主義者ではありませんでした。積極財政を重視した安倍晋三・元首相は財務省と距離がありましたが、とはいえ敵対するわけでなく、財政再建論者や財務省の話も聞いていた。菅義偉・前首相もやはり双方の意見を聞いて判断するというスタイルでした」

小泉純一郎内閣や安倍晋三内閣を官邸スタッフとして支えた経験を持つ元財務官僚で嘉悦大学教授の高橋洋一氏(時事通信フォト)

小泉純一郎内閣や安倍晋三内閣を官邸スタッフとして支えた経験を持つ元財務官僚で嘉悦大学教授の高橋洋一氏(時事通信フォト)

「ストンと肚に落ちる言葉を感じる時がある」

――政治家の個性にもよる。

「そうです。役人のように細かく政策を掴んでいる政治家もいれば、そうではない、純一郎氏のような政治家もいる。純一郎氏に仕えていた頃、総理レクの席上でずっと目をつぶっている純一郎氏に、思わず大きな声で説明をして、周囲をヒヤヒヤさせたことがあります(笑)。

 すると純一郎氏は『寝てるんじゃないよ』と笑って、『目をつぶって聞いていると、ストンと肚に落ちる言葉を感じる時があるんだ』と説いてくれました。実はそうやって拾い上げた1つが、『民でできることは民で』のワンフレーズでした。『自民党をぶっ壊す』もそうですが、純一郎氏はこれと決めたフレーズをブレずに使い続けて、国民を説得していった」

――総裁候補としての進次郎氏もやはり言葉が短い。

「環境大臣の時のような失言を回避する面もあるかもしれませんが、国民に伝わりやすい短いセンテンスの言葉を見つけられるかどうか、政治家としてのセンスも問われることになります。はたして候補者討論会の中でその手法でいけるかどうかは疑問ですが」

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【プロフィール】
高橋洋一(たかはし・よういち)/1955年東京都生まれ。嘉悦大学大学院ビジネス創造研究学科教授、株式会社政策工房代表取締役会長。1980年大蔵省(現・財務省)に入省、小泉内閣・第1次安倍内閣ではブレーンとして活躍。2008年に退官し、『さらば財務省!』(講談社)で第17回山本七平賞を受賞した。YouTube「高橋洋一チャンネル」で注目を集め、チャンネル登録者数は100万人を超える。

取材・文/広野真嗣(ノンフィクション作家)

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