全国各地のスーパーや小売店から米が消え、価格が高騰する異常事態が続いている。今後の価格はどうなるのか──凶作や生産コスト増だけでは説明がつかない「米価のカラクリ」に迫る。【前後編の前編】
「8月に入ると品薄感が強まり、徐々に棚からお米が消えていきました。卸売業者に相談しても『契約分を納めるのが精いっぱい』と言われ、同月中旬以降は棚が空に。9月に入って新潟県や千葉県産の新米が入荷するようになりましたが、連日、夕方までには完売の状況が続いています」──そう話すのは、都内の中規模スーパー店長だ。
首都圏や都市部で「米不足」が顕著になったのは今年8月のこと。それまで当たり前のように買えた米が店頭から消えるまでは「あっと言う間だった」と店長は振り返る。
「テレビや新聞で連日『米不足』が報じられたこと、また8月8日の『南海トラフ地震臨時情報』発出、8月末の台風10号接近が重なり、首都圏でも消費者の不安が加速した感があります。一部で中高年の買い占めが目立ちましたが、彼らは『平成の米騒動』を想起したのかもしれません」
今から約30年前。1993年後半から1994年前半にかけて起きた「平成米騒動」は、記録的な冷夏による米の収穫減が最大の要因だった。今夏と同様、小売店から米が消え、消費者の争奪戦に。国産米とタイ米のブレンド米や、抱き合わせ販売、ヤミ米が販売される事態にまで発展した。
今夏の米不足は昨年の高温障害に加え、外食・インバウンド消費の盛り返し、また災害を意識した備蓄意識の高まりなどの要因が重なった結果と報じられているが、米の専門店「つねもと商店」COOで米流通評論家の常本泰志氏は別の側面に目を向ける。
「米騒動が起きた1993年の主食用米の作況指数(平年収穫量を100とした指標)は74と明らかな大凶作でしたが、2023年は101と平年並みでした。また政府が示した今年6月末時点の米の在庫量は、全国で156万トンと過去最低だったものの、通常であれば新米が出回る時期まで十分に賄える量。数字だけ見れば米不足が起こるとは考えにくかったのですが、大きな盲点がありました」
それは収穫時に出る「網下米」の収穫量激減だった。