さあて、何にするかな。壁一面に魅惑の酒肴が並ぶ
で、最初の昼酒は、やはりあそこだ。新宿思い出横丁の「岐阜屋」へ向かいます。
あの、JRの高架脇の路を通りかかるとき、私の心はいつもフラフラと揺れている。餃子ビールか、焼酎とキクラゲの炒め物か、メンマでホッピー、なんていうのも捨てがたいよ、と頭の中がいっぱいになってしまうのだ。
某月某日。午後2時。私は、この路地を通りかかった。いや、通りかかったというのは、嘘。新宿西口ヨドバシカメラ本店で用事を済ませ、西口から駅に入ればよかったのだが、わざわざ思い出横丁まで来たのだ。
第二宝来家、鳥園、きくやと、よく知った店の前を通れば、ああ、すでに店を開けている店に飛び込んでしまいたくなるのだが、実はもう、頭の中を岐阜屋が占領しているのであった。
ガラスの引き戸を開けると、ランチタイムも過ぎた頃合いとあって、席はいくつも空いていた。扉を背にして丸い座面の椅子に座り、壁にかけられたメニューを眺める。
さあて、何にするかな。なにしろ品数豊富であって、それだけでも迷うのだけれど、酒肴にうってつけの品々が並ぶので、困る。また、このあたり、昼下がりの酒の難しいところなのだが、たいていは一人で店に入るから、頼める料理の数に限りがある。私などは、飲めばあまり喰わないタチであることに加え、齢60を超えて食が太くなろうはずもないから、頼むものは厳選しなければならないのだ。
たとえば餃子にビールという王道を行く選択がある。そこまではいいのだが、他に、たとえばチャーシューの単品とかピータン豆腐とか、つまみ系を追加した場合、その後に肉野菜炒め&ライスとか、ザーサイチャーハンとか、中華丼や五目そばまで、食べきれないかもしれない。それはダメだ。絶対に避けなければならない。