越智氏の質問の根拠は週刊誌報道、自身の伝聞、うわさである。閣僚の答弁に対して追い詰めるような更問いもない。しかし、取りざたされている問題への公明党側の公式見解を引き出すとともに、公明党と創価学会が政教一体の可能性があるという印象を広めることはできている。
後日、野中広務氏が越智氏の質問を引き取るように創価学会の公明党支援や神崎氏と共産党の宮本委員長宅盗聴事件の関係などを質問。これをきっかけに自民党は追及を続け、テーマは越智、野中両氏が取り上げた事柄に加え、公明党人事への学会の影響力、学会に対する税務調査などさまざまな問題に及んだ。
また質問の根拠にも、創価学会の内部文書や元信者などの告発証言が加わった。週刊誌報道などへの反論答弁で引き出した公式見解を否定するようなもので、信頼性を低下させる印象操作には成功している。
国会質疑は、政策をめぐる論争の場ではあるが、国会での多数派が首相を選出する議院内閣制である限り、与野党による権力闘争という側面を伴う。自民党は国会を闘争の場として、「政治と宗教」の問題を闘争の武器として最大限利用したのだった。
【プロフィール】
柿崎明二(かきざき・めいじ)/1961年、秋田県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、毎日新聞社を経て共同通信社に入社。政治部で首相官邸、外務省、旧厚生省、自民党、民主党、社民党などを担当した。政治部次長、論説委員兼編集委員、菅義偉内閣首相補佐官などを経て2022年より帝京大学法学部教授。主な著書に『検証 安倍イズム──胎動する新国家主義』(岩波新書)、『「次の首相」はこうして決まる』(講談社現代新書)、『「江戸の選挙」から民主主義を考える』(岩波ブックレット)など。最新刊は『権力の核心「自民と創価」交渉秘録』(小学館新書)。