「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」──現在、民法ではこう定められており、結婚を機に約95%もの女性が改姓を余儀なくされている。約30年もたなざらしの状況が続いている「選択的夫婦別姓」の議論。日本の婚姻における“ゆがみの象徴”は、なぜ解消されないのか。【前後編の後編。前編から読む】
現状では夫婦別姓が認められないため、姓を変えたくないカップルは法律婚に踏み切れず、婚姻届を出さない事実婚を選ぶこともある。そのために不利益を被るケースも少なくない。選択的夫婦別姓制度導入を目指し、国を相手に提訴した第三次別姓訴訟弁護団の寺林智栄弁護士が語る。
「事実婚の妻もしくは夫は、他方の法定相続人とは認められず、財産を相続するには遺言が必要になります。選択的夫婦別姓制度が導入されれば、別姓であっても、ふたりとも相続について問題なく本来の権利を得ることができます」
導入反対で多い「子の姓の安定性が損なわれる」
ここまで日本が夫婦同姓にこだわる理由はどこにあるのか。
導入を反対する層の主張で多いのは、「子の姓の安定性が損なわれる」可能性があることだ。父親と母親の姓が異なると、生まれた子供はどちらの姓を名乗るかという問題が生じる。複数の子供がいる場合は子供間で姓を統一するのか否かなど、より一層の混乱が指摘され、子供の心に与える悪影響や周囲からの視線を懸念する声もある。
また、夫婦や子供の姓がバラバラだと明治時代から続く「家」という概念が崩壊し、家族の絆が弱まり、家族の一体感が喪失されるという意見も聞かれる。
この懸念点について、寺林さんは、「子供の姓は、確かに揉める要素かもしれませんが、制度の作り方次第で解決可能です」と語る。
「海外では結合姓や連結姓など多様な姓のあり方を認める国もあります。日本でも、父親の姓と母親の姓を両方併記し、一定の年齢になったら子供に選ばせるなど柔軟な制度を作ればいい。戸籍上での表記を心配するかたもいるでしょうが、それも戸籍法を改正すれば解消されるはずです」