継続して検査データを把握し、かかりつけ医と共有する
逆に60歳以上で健康に自信があり健康診断も受けていない方は、却って突然死リスクが高いといえます。というのも、日ごろの自分の血管や細胞がどういう状態なのか把握できていないからです。また、毎年健康診断や人間ドックを受けているから大丈夫だと思っている方も、突然死の可能性があります。健診や人間ドックを受けているだけでは不十分で、自分の検査データの数値が年ごとにどのように変化しているか把握していなければ意味がありません。
例えば、血液検査でヘモグロビンの数値が、1年で15から13に下がったとします。15も13も数値としては正常範囲内ですが、自覚できる理由もなく15から13に数値が下がったのは、実は腸管にがんが発生したためだった可能性もあります。正常範囲内だから大丈夫だと安心するのではなく、継続して数値を把握し、それをかかりつけ医と共有することで隠れている病気の早期発見につながります。健康を過信していては、健康長寿が保てないということを肝に銘じることが大切です。
近年、医学界では「臨床イナーシャ」が問題となっています。イナーシャは「惰性」という意味です。「患者の問題を認識していながら、医師がそれを解決する行動を起こすことができない状態」で、具体的には「治療目標が達成されていないのに、治療が適切に強化されていない状態」を指します。
高血圧や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病を合併している患者さんは、5~6種類もの薬を処方されていることがあります。たとえば、降圧剤を飲んでも血圧のコントロールがうまくいかないので、医師はあと1剤内服薬を増やしたいと考えたとします。ところが患者さんが「これ以上薬を飲むのは嫌だ」と拒否した場合、医師は患者さんを説得するのが大変だからと様子をみてしまうことがあります。これが臨床イナーシャです。
血圧をコントロールすることで心臓血管系の重篤なイベントを防げたかもしれないのに、説得が面倒だからと適切な薬物治療をしなければ命に関わることもあります。医師が一方的に患者さんの気持を忖度し、必要な治療の提案を実行しないのは問題ですが、患者さんの側では自覚しにくい問題かもしれません。だからこそ、臨床イナーシャについて理解しておく必要があります。