「曖昧な記載」には要注意
特に気をつけたいのは「曖昧な記載」だ。
「たとえば『財産は妻に任せる』といった記載をする人が少なくないのですが、『任せる』は解釈が難しい。妻にすべての財産を相続させるのか、妻が財産を分けるのか判然とせず、遺言書が無効になる可能性があります」(同前)
(以下、図「自筆証書遺言の失敗例」と共に、遺言書の作成方法を解説)
分け方を明記したとしても、矛盾する内容では無効となる。相続専門の税理士で社会保険労務士の佐藤正明氏が語る。
「『長男に○分の1、次男に○分の1』と書いてあるが、足すと1にならなかったため無効になったケースが実際にありました。配分を間違えていると結局、遺産分割協議で決めなければならなくなります」
そのうえで、「遺留分」に配慮した分け方が相続をスムーズに進めるには望ましい。
「法定相続人は法定相続割合の2分の1もしくは3分の1の『遺留分』が認められています。兄弟の一方に偏るなど、他の相続人の遺留分まで侵害すると揉めて長引きやすいので注意してください」(同前)
法務局で保管なら検認が不要
自筆証書遺言は書き方のルールを間違えなければ紙切れでも遺言書と認められるが、気をつけるべき点は多い。前出・鈴木氏が言う。
「自筆の場合、開封時に相続人全員が立ち会いのもと家庭裁判所で内容を確認する『検認』の手続きが必要です。検認の前には相続人全員の戸籍謄本などの書類が必要で、家庭裁判所がその書類を確認するのにも時間がかかる。申し込みから1か月後くらいに検認日を指定されるケースが多く、手間も時間もかかります」
そこで活用したいのが、2020年7月に始まった法務局での保管制度だ。
「法務局に保管しておけば検認が不要で、書式の不備のチェックもしてもらえます。利用する際には遺言書を書いた本人が法務局に出向き、遺言書と本籍記載のある住民票などを持参します」(同前)
一方、公証役場で公証人と2人の証人が立ち会って作成する「公正証書遺言」は、2万~5万円ほどの費用がかかるが相続手続きを円滑に進めるうえではメリットが多い。
「作成時に公証人が認証するので、相続発生後に裁判所にもう一度確認してもらう必要がなく、検認は不要。最短で相続するなら公正証書遺言の作成が理想です」(同前)
※週刊ポスト2024年10月18・25日号