以降、角会長は同じ早大出身の岡田監督の強力な後ろ盾となった。そして岡田監督の2年契約が終わる今オフを前に、角会長には意中の後継者がいたとされる。
「鳥谷敬氏(43)です。岡田監督から鳥谷氏へと、早大閥でのバトンタッチを望んでいたといいます。角会長としては、あと1年は岡田監督に続投を頼み、その間に鳥谷氏を次期監督に育ててもらう腹づもりだったとされる」(球団職員OB)
(以下、「鳥谷監督が実現しなかった理由」などと共に、【図解】で藤川新監督就任の舞台裏を解説)
岡田監督自身も、鳥谷氏を後継候補と考えていたと見られている。前出・野崎氏が言う。
「2003年に星野仙一さんから監督を引き継いだ岡田監督が最初のドラフトの際、8球団が競合して自由獲得枠で獲得したのが鳥谷だった。東京出身の彼が在京球団ではなく阪神を選んだのは、『ショートで使い続ける』という岡田監督との約束があったからとされます。鳥谷こそ岡田イズムを最も受け継いでいる選手だという思いがあり、禅譲を望んでいたのではないか」
宝塚パワハラの影響
ではなぜ角会長、岡田監督が望んだ「鳥谷監督」は実現しなかったのか。野崎氏はこう言う。
「昨年9月、傘下の宝塚歌劇団で起きたパワハラによる俳優の自死事件で、責任を追及された角会長は近々の辞任を示唆しています。それによって阪急HD側のタイガースに対する影響力が弱まったのでしょう。
鳥谷自身は監督をやるつもりはないと言っていますが、阪急HDの影響力が強いままなら、岡田監督に続投を要請し、後継候補として鳥谷を口説いてコーチに据えることもできたかもしれません」
そうした力関係の変化があったからこそ、阪神球団サイドは巻き返しに動いたとされる。
「阪神球団側は主導権を握り返す最後のチャンスと見て、引退直後からタイガースの球団本部付のスペシャルアシスタントとして編成部をサポートする藤川氏に白羽の矢を立てました。来年は球団創立90周年で球団主導の若い監督を立てたかったなかでは藤川氏はベストの選択。教え子の1人のため岡田監督も露骨に反対できないし、角会長も強く反対する理由がない」(前出・球団職員OB)
阪急阪神HDに今回の監督人事にどう関わったのかを問うと「各事業所の業務に関わることは、こちらではお答えできない」(広報部)とした。
監督人事以外の動きも出てきている。10月4日付のサンケイスポーツが、年内で阪神球団の杉山健博氏がオーナーを退任し、新たに阪神電鉄会長の秦雅夫氏が就任する見込みであると報じた。
「2022年12月に阪急出身者として初めてオーナーに就任した杉山氏は、岡田監督をバックアップする役割を担うと言われ続けてきた。岡田監督が2年契約を終えて退任することに伴い、オーナーの座も阪急出身の杉山氏から阪神出身の秦氏に戻すことになったのではないか」(前出・球団職員OB)
野崎氏は阪神の行く末をこう見る。
「新オーナーになる見込みの秦さんは阪神電鉄の人事畑を歩んできた保守本流の人物。伝統を重視する人なので昔のタイガースに近い運営になっていくのではないか。来季以降は阪急サイドが口を出さず、阪神球団が主導権を握る。阪急が誕生させた岡田監督の勇退はタイガースをめぐる主導権の“阪神回帰”の象徴と言える動きでしょう」
2006年の合併から10月1日で18年が過ぎてなお、阪急と阪神の緊張関係が囁かれるなか、来季の藤川タイガースは王者の座を奪還できるだろうか。
※週刊ポスト2024年11月1日号