今も昔も変わることなく世に溢れる「詐欺師」。出来れば一生出会いたくない相手だが、『女性セブン』の名物ライター“オバ記者”こと野原広子さんは、見事にしてやられたことがあるという。オバ記者がその“華麗な手口”について綴る。
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「SNSを通じて投資詐欺に引っ掛かる人が後を絶たない」と聞いて、真っ先に思い出すシーンがある。
「まぁ、ひと言で言えば、あなたは“詐欺師”ですね。一生ずっとそんな性格を持て余すことになるでしょう」
いやいや、これほどひどい言い方をする占い師に私は出会ったことがない。時あたかもバブル期のまっただ中。新宿・伊勢丹の裏手で生真面目そうな男性占い師に手を差し出したのは、男友達のYだ。彼と私はいわゆる男女の関係ではないけれど、当時いちばん身近にいた人だ。私は「ギャハハ、詐欺師だって」と笑い出したけど、彼はペタッと平たい顔になって固まってたっけ……。
でも実は、私も笑っている場合ではなかったんだよね。というのも、彼にかなりまとまったお金を貸したばかりだったのよ。案の定、期日になっても彼はお金を返さない。それを突っ込むと、返したくても返せないもっともらしい理由が雨あられと飛んでくる。だけど、私にだって待ったなしの支払いがある。緊迫したやりとりが続く。どん詰まり。そんなときに彼は、「あ、そうだ。あれさぁ」と口調と話題を変えるのよ。そのタイミングの絶妙なこと──。
彼は当時34才。私より4才上で、映像関係の仕事をしていた。神奈川県出身で、口を開かなければ純朴そのものに見えるタイプだった。それに彼は、パソコンの設置など私が苦手なことを手伝ってくれたり、英語の翻訳もサラサラとやってくれたりするから、まぁ、いいかと返済を先延ばしにした。
幸い、お金は返ってきてひと安心、と思っていた矢先よ。彼が私の前に書類を広げたんだわ。「めったにない条件のマンションを見つけたから引っ越したい。保証人になって」って。管理の厳しい不動産物件で、保証人が2人必要だという。もう1人の保証人は、私が一度だけ会ったことのある、大手企業に勤めるTさんで、これから会いに行くと彼は言うが、本当か嘘か。即座に確かめようもない。
そんなとき、急にイヤ気がさしてくるのが私の悪いクセだ。「ああ、わかった、わかった。ここにハンコ押せばいいんでしょ」と言いながらポンッと押しちゃった。
結果、Yは一度も家賃を払うことなく逃げた。借りた家に住んではいるけど、支払いとなると閉じこもって出てこない。私は毎日、彼の家のドアを叩いた。そうこうするうちに保証人の私が大家から訴えられ、東京地方裁判所に呼び出された。会議室のような部屋で対面した大家も、催促するたびにYに丸め込まれていたのよね。「騙されたことが悔しい」と、地方裁判所の一室で80代の老いた顔を歪めていたっけ。