田代尚機のチャイナ・リサーチ

【開催中の「BRICSサミット」】ロシアが呼びかける“脱米ドル”のシステム構築の現実味 BRICS勢力の拡大と参加国の思惑がポイントに

ロシアのカザンで開催中のBRICSサミット(SPUTONIK/時事通信フォト)

ロシアのカザンで開催中のBRICSサミット(SPUTONIK/時事通信フォト)

 BRICSサミットが10月22日から24日までの日程で、ロシアのカザンで開かれている。欧米メディア(ロイター、10月16日付)などは「ロシアは欧米からの経済制裁の影響を受けない国際決済プラットフォームの構築を呼び掛けようとしている」、「ロシアはグローバル金融システムを徹底的に変革し、米ドルに依存した体制から脱却するために各国との協力を望んでいる」などと報じている。はたしてそんなことができるのだろうか。

 まず、BRICSについてだが、ネーミング自体は2001年、ゴールドマン・サックスのチーフエコノミストが世界の新興市場としてブラジル、ロシア、インド、中国をひとまとめにして総称(BRICs)したことに端を発しているが、BRICSサミットはそれとは直接関係なく、2006年の国連総会において、4か国の外相が各国の協力関係構築を目的に会合を開いたところから始まった。2006年6月にはロシアのエカテリングブルクにおいて初めて首脳が一堂に会し、その時点からサミット会議に格上げされた。2011年には南アフリカが加わり、2024年1月1日からはサウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦、イラン、エチオピアが加わっている(BRICS側資料より)。

 先進国のG7サミットと対立・対抗する首脳会議といった位置付けになるのだが、いろいろな角度から比べてみると、両陣営の勢力は意外に拮抗していることがわかる。

 2023年の名目GDP(IMF)で比べると、BRICS(10か国)はG7の60%だが人口(IMF)では4.6倍だ。資源についてみると、BRICSは石油の生産量(EL)で勝るとともに生産量から消費量を差し引いた金額では、BRICS側が4億1435万トンの余剰であるのに対して、G7側は1億9829万トンの不足だ。農産物の輸出から輸入を差し引いた純輸出額(UNCTAD)はG7では1442億ドルの赤字だが、BRICSは358億ドルの赤字に留まっている。両陣営の対立がこれまで以上に激しくなり、経済のブロック化が更に進んだ場合、エネルギー、資源、農産物などにおいて、BRICS側は優位に立てそうだ。

 工業製品に関しては、その生産範囲、規模に関して圧倒的に強い中国がBRICS側にいる。全体の経済規模が劣るからといってモノの生産、サービスの提供などにおいてBRICS側が不利になるとは限らないだろう。

 もっとも、G7側が圧倒的に有利な要素がある。それは米ドルが基軸通貨であることから生じる国際的な金融取引や、金融決済と表裏一体である貿易取引において、大きな支配力を持っているという点だ。だから、BRICS側、特にロシアは、脱米ドルを一刻も早く進めたいと考えている。

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