加盟国の中でも“脱米ドル”への意欲に温度差
BRICSサミットに話を戻すと、ロシアは“経済制裁の影響を受けない国際決済プラットフォーム”として「BRICS参加国の中央銀行を通して間接的に銀行間ネットワークを形成し、ブロックチェーン技術を利用し、各国通貨に紐づけされた仮想通貨を通して預金、送金などを行う」といった仕組みを提案している。
ブロックチェーンを使った仮想通貨の実用実験では国際的に中国が先行しており、技術的な障害は比較的小さいのかもしれないが、普及のポイントはほかにある。参加国の拡大と、参加国の脱米ドルに対する意欲の強さといった2点が重要となるだろう。
スペインEFE通信は10月9日、「ブラジルのマウロ・ヴィエイラ外務大臣によれば現在、30か国近い国家がBRICS国家協力メカニズムに加入申請している」と報じている。この中には「キューバ、トルコやASEAN国家が含まれる」としている。そのほか、マレーシア、スリランカやセルビアが加盟申請に動いているといった報道も見られる。
今後も加盟国は増える可能性が高いものの、G7が米国を中核とした安全保障を含めた強い結びつきがあるのに対して、BRICS側は経済的なメリットが主な求心力となっており、その結びつきは強くない。アルゼンチンのように政権が変われば、一転してBRICSへの参加を取りやめてしまうような国もある。
脱米ドルに対する意欲の度合いについても、加盟国の間で大きな温度差があるようだ。たとえば、インドのジャイシャンカル外務大臣は「脱米ドルに関心はない。国際貿易における米ドルでの決済を終始支持しており、米ドルの使用が不可能な場合があれば、ルピーでの決済を希望する」などと表明している。
結局、BRICSの勢力拡大は、米国覇権の強度と表裏一体ではなかろうか。そうした観点からいえば、目前に迫っている米国の大統領選挙の結果が気になる。トランプ氏の返り咲きとなれば、米国第一主義を徹底させることで、G7、NATOを軽視したり、自由貿易を軽視したりすることが予想される。それ自体がBRICSの勢力拡大、米国覇権、ドル覇権の弱体化を加速しかねない。グローバルにおける大半の既得権益者たちにとって、それは大きな災難だ。
今回の米国大統領選挙の結果は、後から振り返ってみると、国際社会が大きく変革するきっかけとなった出来事として、長く歴史に刻まれる出来事となるかもしれない。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。