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コンビニ三国志

【3社の実力を大図解】「コンビニ三国志」の現在地 ローソンはスイーツに活路、ファミマは衣料品を稼げる分野に、セブンの「値引き戦略」は危機感の表われか

激化するコンビニ大手3社の競争(時事通信フォト)

激化するコンビニ大手3社の競争(時事通信フォト)

 外資企業からの買収提案に揺れるセブン&アイ・ホールディングス(HD)。日本にコンビニを根付かせた業界の王者だが、ファミリーマートとローソンの猛追によって、いよいよ「一強体制」が崩れつつある。【コンビニ三国志・全3回の第1回】

鈴木敏文氏の退任で構図激変

 コンビニ業界には今、“三国志”とも称される競争激化がある。国内の全店チェーンの売上高はセブン-イレブンが5.3兆円超(店舗数2.1万)で首位。2位のファミリーマート(同1.6万)が3.6兆円、3位のローソン(同1.4万)が2.4兆円と続く。圧倒的な強者はセブンだが、2社の追随を受けるなかで、経営面は決して盤石ではない。

 今年に入ってカナダのコンビニ大手・アリマンタシォン・クシュタールから7兆円規模の買収提案を受け、対応に追われている。10月、セブン&アイHDは、不振が続くイトーヨーカドーなどを新たな中間持ち株会社に移し、「コンビニ専業」となることを打ち出したが、2社の追撃による危機感もあっての経営判断だとされる。

 セブンの1号店が開店して50年。「コンビニの父」と称される鈴木敏文氏(セブン&アイHD前会長)が始めた先駆的な取り組みは他社にも次々と取り入れられ、コンビニ文化が成熟した。24時間営業、おにぎりやおでんの販売、コピー機やATMの設置といった“セブン発祥”のサービスは他のコンビニでも当たり前のものとなった。経済ジャーナリストの河野圭祐氏が言う。

「鈴木氏が目を付け導入した新サービスを、各社が追随したり別のアイデアで対抗したりする構図が長く続きました。しかし、鈴木氏がセブン会長を退任した2016年以降、潮目が変わった」

 鈴木氏の退任と時をほぼ同じくして、国内のコンビニ事業は2017年頃から飽和状態に。2023年度は売上高こそ過去最高を記録したが、新規出店を店舗閉鎖が上回り、国内店舗数は2年連続で減少した。

 この間、業界では再編が進んだ。ファミマは2018年に伊藤忠商事の子会社に。ローソンは2017年に三菱商事傘下となり、今年からKDDIが共同出資の形で経営に参画した。

「ファミマは伊藤忠の強みを活かした新商品、ローソンはKDDIの知見や技術を活かした次世代コンビニの開発など新機軸で勝負を仕掛けています」(同前)

 大手3社は今、現場でどのような闘いを繰り広げているのか。

セブン・ファミマ・ローソン 3社徹底比較

セブン・ファミマ・ローソン 3社徹底比較

PBで先行したセブン、女性客狙いで追うローソン

 商品力で他社を圧倒してきたセブンの象徴が、2007年に発売したPB(プライベートブランド)の「セブンプレミアム」だ。なかでも一流料理人や専門家が監修した「セブンプレミアムゴールド(金のシリーズ)」は高級路線が顧客に支持されてきた。ローソンの元バイヤーで流通アナリストの渡辺広明氏が言う。

「それまでコンビニのPBは『安さありき』というイメージだったが、セブンの鈴木氏はNB(ナショナルブランド)の一流メーカーにも製造の“裏方”を担ってもらうことで、高品質のPB商品を誕生させた。『高くていいもの』という価値観をPBに持ち込んだのは鈴木氏の功績です。ただ、改良こそされていますが、近年はこうした新発想の大ヒット商品が出ていない」

 先行するセブンに対してローソンは2009年、三菱商事出身の新浪剛史社長(当時)のもと「女性客」を狙ったオリジナル商品を送り出す。

「輪切りのロールケーキを倒した状態からスプーンで掬って食べる『プレミアムロールケーキ』が大ヒット。ローソンは『スイーツ』に活路を見出した。以来、次々と新商品を開発し、2019年の『バスチー(バスク風チーズケーキ)』などヒットを連発。男性客が7割と言われていたローソンは、こうした商品の力で女性客を開拓した。今年も濃厚チーズケーキが大ヒットし、利益を押し上げました」(同前)

ファミマ“稼げる靴下”の登場

 一方、「ファミマは長年PBの定着に苦戦してきた」と指摘するのは、セブン-イレブン・ジャパンとローソンでの勤務で14年の現場経験を持つコンビニ研究家の田矢信二氏。

「2017年に始めた『お母さん食堂』などジャンルごとに展開していたPB食品を2021年に『ファミマル』に統合、再スタートさせるなど今も過渡期にある。

 ただ最近、大きなヒット商品が生まれました。伊藤忠商事の繊維部門と提携し2021年に販売が始まった『コンビニエンスウェア』。ファミマカラーの靴下など素材やデザイン、品揃えに独自性を打ち出して人気となり、急な雨や出張時などの“緊急需要”だったコンビニの衣料品を“稼げる分野”に大きく改革しました」

 ファミマは提携していた「無印良品」の販売を2019年にやめた経緯があり、日用品でのヒット商品誕生は業界の注目を集めた。

「コンビニ歴が長いほど、PB商品の利益は食品で出すのが常道だと思いがちですが、伊藤忠商事出身のファミマ社長である澤田貴司氏や細見研介氏がそれとは違う物差しを持ち込み、うまく商品化に繋げている」(同前)

関係者を驚かせたセブンの「エコだ値シール」

 2社を迎え撃つセブンはどうか。ローソン側でセブンの商品を見てきた渡辺氏は最近の動きに変化を感じている。

「セブンは冷凍食品(冷食)の分野で圧倒的にリードしてきた。ですが、最近のラインアップは金のシリーズ以外に、ラーメンなら『蒙古タンメン中本』『すみれ』、パスタは『カプリチョーザ』など有名店をそのまま打ち出して商品化している。これはローソンなど他のコンビニが得意としていたものです」(渡辺氏)

 さらに関係者を驚かせたのが、セブンの「エコだ値シール」導入だ。弁当やおにぎりなど、廃棄が迫った商品の値引きを今年5月に始めた。

「鈴木前会長の教えのもと、セブンは“価格が高くても高品質”にこだわりがあったが、足元の物価高で高いというイメージを消費者に持たれたため、『食品ロス削減』を謳い値引き戦略に舵を切ったとされます。セブンの危機感の表われとも取れる」(同前)

第2回に続く

※週刊ポスト2024年11月8・15日号

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