外資企業からの買収提案に揺れるセブン&アイ・ホールディングス(HD)。日本にコンビニを根付かせた業界の王者だが、ファミリーマートとローソンの猛追によって、いよいよ「一強体制」が崩れつつある。【コンビニ三国志・全3回の第3回】
競争が激化している「アジア太平洋」エリア
国内では少ないパイを奪い合う3社だが、海外進出にも力を入れている。
特に競争が激化しているのが「アジア太平洋」エリアだ。『日系コンビニエンス・ストアの国際展開』(文眞堂刊)の著書がある川邉信雄・早稲田大学名誉教授が言う。
「海外に6万店以上出店するセブンは日系コンビニで唯一、北米に展開し、中国や東南アジアへも出店しています。ファミマは早くから進出した台湾、ローソンは中国に強い」
2021年に米コンビニ大手「スピードウェイ」を買収したセブンは、1.3万店以上を出店する主戦場である北米地域で苦戦している。不振が響き、2025年2月期の海外コンビニ事業の営業利益の見通しは、前期比31%減に下方修正されている。
「急激なインフレの米国では便利さよりも価格の安さを求めるニーズが増加し、売上・利益に影響を及ぼしたと考えられています」(同前)
海外コンビニの事業環境は国によって様々だが、3社とも築いた“地盤”を守るべく工夫を凝らす。
「セブンは屋台文化のあるタイで店舗前での屋台出店を受け入れたことで一気に定着しました。食べ物は屋台、飲み物はセブンで買ってもらうような関係です。巨大市場の中国でセブンを上回る出店数を誇るローソンは『串に刺したおでん』を売り出し、歩きながら食べるホットスナックとして人気になった」(同前)
シニア層を狙い「宅配事業」を開始
国内でのサービス面の競争も激化している。店舗への集客が大きな課題となるなか、「ラストワンマイル」を狙う動きが加速しているのだ。
先行して動いたローソンは流行に敏感な若者と来店が億劫になりがちなシニア層を狙い「宅配事業」を開始した。ローソンの元バイヤーで流通アナリストの渡辺広明氏が言う。
「2019年に始めたウーバーイーツなどによる宅配を実施する店舗は現在約9300。コロナ禍の影響で一気に普及しました。今夏には、『ワタミの宅食』と連携してローソンの商品を届けるサービスの実証実験を埼玉県で開始しています」
このローソンの動きを追いかけたのが、昨年始まったセブンの宅配サービス「7NOW」だ。スマホアプリを通じて店に在庫のある商品の注文を受け付け、店員や委託業者が届ける。8月現在で1.6万店が対応済みで、来年2月までに2万店体制を目指すという。
「8月から一部店舗で焼きたてピザの宅配を始めており、宅配で先行するローソンとの差別化を図っている。セブンはローソンを猛追する状況で、宅配事業を成長戦略の柱と見込んでいます」(同前)
三者三様の新たなアプローチで鎬を削る“コンビニ三国志”。生き残りをかけた長い闘いが続く。
(第1回から読む)
※週刊ポスト2024年11月8・15日号