「手取りを増やす」と訴えて総選挙で躍進した玉木雄一郎・国民民主党代表。その主張がサラリーマン層の共感と支持を呼んだのは、われわれの「手取り」が自民党政権で大きく減らされてきた現実があるからだ。前編では主に社会保険料の負担増を検証、後編では“隠れ増税や年金減額”に迫る。【前後編の後編】
控除廃止の“隠れ増税”
“隠れ増税”も次々に行なわれた。
所得税の計算で税額から差し引かれる各種控除が廃止・縮小され、知らないうちに給料から天引きされる税金が増えているのだ。
(以下、図解「年収600万円のケースで試算。給料からの天引きは20年でこれだけ増えた」と共に解説)
2004~2007年にかけては「配偶者特別控除(上乗せ部分)」をはじめ、年金改正に合わせて「老年者控除」や「住民税の老年者非課税措置」、「公的年金等控除」などの廃止・縮小で高齢者の手取りが大きく減らされた。さらに、1999年から“恒久的減税”として始まったはずだった所得税と住民税の「定率減税」の廃止では、全世代で税の負担額が増えた。
その後、2011年には15歳以下の子供を持つ人の「年少扶養控除」と特定扶養親族(16~18歳)分の「扶養控除の上乗せ」、2018年には所得1000万円超の人の「配偶者控除」なども撤廃された。
消費税率の引き上げや所得税の増税は国民には負担増がはっきりわかるため、激しい反対が起きる。だが、控除の廃止・縮小は負担増が見えにくいため、反対の声は大きくなりにくい。こうした“隠れ増税”で手取りがじわじわと減らされていったのだ。
社会保険料引き上げと各種控除の廃止・縮小による税負担の増加を合わせると、同じ年収600万円のサラリーマンの手取りは、2003年当時の約503万円から2012年は約482万円、現在は474万円と、20年間でなんと約29万円も減っている。
企業負担分も含めれば、政府に抜き取られる税・保険料の増加分は、実に約48万円。
玉木氏の主張通りに「年収の壁」が178万円に引き上げられても、年収600万円のサラリーマンの手取り増は15.2万円で、この20年間で歴代政権が減らしたサラリーマンの手取り減を穴埋めするには全然足りないのだ。
さらに言えば、その間、消費税率が5%から10%に引き上げられ、この消費増税を含めると可処分所得の減少はさらに大きくなる。
年金は実質1割も減らされた
サラリーマン以上に手取りが減らされてきたのは年金生活者だ。とくにこの10年間は凄まじい勢いで年金が減額された。
まず第2次安倍政権下の2013~2015年に年金水準を一律2.5%引き下げた。さらに2015年からはそれまで行なわれてこなかった物価上昇時に年金額を実質減額する「マクロ経済スライド」を5回実施して単純な合計で2.2%引き下げた。
さらに今年4月には、毎年なされる年金改定の際に物価と賃金がともに上昇した場合は支給額を“伸びの低いほうに合わせて改定する”という年金を目減りさせる新ルールが実施された。
その結果、物価は2012年から現在までに約12%も上昇したが、年金支給額の伸びは3%程度に抑えられた。
実質1割近い減額だ。高齢者の生活は急激に苦しくなった。
経済ジャーナリストの荻原博子氏は言う。
「物価高騰のなかで手取りが大きく減って一番生活に困っているのは高齢者ですよ。年金の支給額そのものが実質ベースで減っているのに加え、高齢者の健康保険料や介護保険料が上がり、医療費の窓口負担や介護の自己負担も次々に値上げされてきた。医療費が1割負担から2割負担になった人はいきなり支払いが2倍に増えたわけです。
年金しか収入がない人はとくに可処分所得(手取り)が見る見る減ってきて、このままでは生活できなくなると痛切に感じています」
自民党政権によってサラリーマンや年金生活者が奪われてきたこの「手取り」を、玉木氏はどれだけ取り戻すことができるのか。
玉木氏と国民民主党の真価が問われている。
(前編から読む)
※週刊ポスト2024年11月22日号