コンビニやスーパーのビール売り場に、異変が起きている。大手ビール各社が相次いで新商品を開発・投入し、熾烈な“陣取り合戦”を演じているのだ。王者であるアサヒの「スーパードライ」を追う形で、サントリーは新商品「サン生」を猛アピール。「発泡酒」や「第3のビール」でなく、値段の高いビールで勝負を仕掛ける各社の思惑とは。【前後編の後編】
ヒットを支えた「晴れ風ACTION」の仕組み
ビールの新商品で今年最大のヒットとなったのが、4月に発売されたキリンの「晴れ風」だ。キリンとしては17年ぶりにスタンダードビールの新商品を投入した。同価格帯に主力の「一番搾り」や「キリンラガー」があるなか、「市場を自社で食い合うのでは」と懸念もあったが、9月末までに早くも460万ケースを売り上げた。
「今後を見越して若者や女性ウケを狙って新商品の投入を決断した。さっぱりテイストにすることや、“青系は売れない”が業界の常識とされるなかでパッケージをターコイズブルーにすることなどには社内でも賛否が分かれました。いざ発売すると生産が追いつかない大ヒットとなり、社内でも驚きの声があがっています」(キリンビール社員)
晴れ風のヒットを支えた一つの要因が、購入で「風物詩の保全・継承に係る取組みを継続的に支援する」ことができる「晴れ風ACTION」の仕組みだという。
350ml缶1本につき0.5円が「桜の保全活動」(第一弾)、「花火大会の支援活動」(第二弾)に寄付される。さらに、パッケージに大きく配置されたQRコードを読み込むことでも表示される専用サイトでは、(購入の有無にかかわらず)「晴れ風コイン」が1日1枚無料供与され、1枚0.5円分の寄付活動ができる。
晴れ風の好調な売れ行きを受け、キリンビールの堀口英樹社長は8月、社員を労うメッセージを配信したという。
「上期にビール類を牽引したのは晴れ風だったと書かれていて、発売早々に売れすぎて出荷調整となる厳しい局面もあったが、全部門の連携で乗り越えたことを労っていた。
晴れ風の勝因については、メディア露出と店頭での活動が実を結んでいることとQRコードの施策によって『花火の支援で各自治体のメディア露出も増えていて、新しいお客様の共感を得ている』といった内容が書かれていました」(同前)
これまでのように単にCMを打つといった宣伝展開をするだけでなく、寄付活動というかたちで露出を増やしたことが、販売にも貢献したと見られているのだ。
サントリーやキリンの猛追を、王者アサヒはどう迎え撃つのか。アサヒは2021年にスーパードライブランドの「生ジョッキ缶」が大ヒット。さらにドライブランドを活かした新商品を投入する。昨年10月発売の「ドライクリスタル」は、アルコール度数を一般的なビール(5%前後)より低い3.5%とし、「透明感のあるドライな味わい」を謳う。経済ジャーナリストの河野圭祐氏が言う。
「アサヒはドライの圧倒的なブランド力を活かしていく方向が鮮明です。健康志向の高まりから、3.5%という低アルコール商品で、これまでビールを敬遠してきた人をターゲットにする狙いがある」(河野氏)
「糖質オフ」の争いも
ビールの次の主戦場になりそうなのが、「糖質オフ」系の商品だ。ビール業界に詳しい経済ジャーナリストの永井隆氏が言う。
「糖質オフやプリン体オフなど健康志向を打ち出した機能系ビール類の展開は発泡酒や第3のビールが中心でしたが、酒税改正による価格差の縮小で、それらのニーズがビールに移行していくと見られています」(永井氏)
同戦線では2020年発売のキリン「一番搾り 糖質ゼロ」、2021年発売のサントリー「パーフェクトサントリービール」が糖質オフを謳って先行している。そこに参戦したのが、昨秋、糖質とプリン体70%カットの「ナナマル」を発売したサッポロだ。
「ナナマルの発売は、2026年10月の酒税一本化後を見据えているのでしょう。これまで糖質やプリン体カットなど健康志向を競ってきた市場では、キリンの淡麗シリーズなど発泡酒や第3のビールが存在感を示してきた。
サッポロは黒ラベルやヱビスなど盤石なブランドを持つため、新たな購買層獲得のため健康志向のビールを新たな市場開拓で送り込んだ」(同前)
各社が威信を懸けて送り込んだ新商品は今後、「定番」となるか。
(前編から読む)
※週刊ポスト2024年11月22日号